「虎杖くん、好きです」

今日は悠仁も運動部の助っ人がないから三人で帰れるね、って話してた日。帰りの時間になっても悠仁が教室に居なかった。宿儺はめんどくさがったけど、2人で悠仁を探すことにした。宿儺の双子の勘を頼りに悠仁を探し、すぐに悠仁は見つかった。はいいものの、見つけた悠仁はちょうど可愛い女の子に告白されているところだった。ちょっとの興味とたくさんの好奇心から、その場から動けないでいると、宿儺の両手が私の耳を包んだ。



「宿儺?」
「こういうのは聞くものではないだろう」
「え?なんて?」


宿儺が私になにかを告げているのは分かったけれど、耳を塞がれたままの私には宿儺がなんて言っているのか分からなくて、思わず首を傾げる。悠仁が両手を合わせて、女の子に何か言っているのは分かった。それはきっと「ごめんね」の答えで。この時初めて、好奇心から告白現場を覗いてしまったことを後悔した。申し訳なくて、それ以上は目を伏せたけど、そんなの何の意味もなくて。どこにも行き場のない思いをどうにかしたくて、私の後ろに立っている宿儺に抱き着いた。怒られるかと思っていたのに、予想に反して宿儺は私の頭をポンポンと撫でた。悠仁と宿儺のこの手のひらに、私は何度救われただろう。今日も宿儺の手は優しさを私に届ける。



「あれ?宿儺となまえ居たの?」
「一緒に帰ると言っていたろうが」
「あーうん。俺、荷物まだ教室だ」
「さっさと取ってこい。先に家に向かう」
「おっけ!じゃあ追いかけんね」


悠仁と目を合わせられない私に理由を示すように、宿儺が私と悠仁の距離を離してくれた。私は宿儺にくっつきながら、立ち去る悠仁に何も言えなかった。


「そんな顔するな」
「でも、」
「だから俺はやめろと言ったであろう?」
「だって、」
「でももだってもただの言い訳だ。悠仁に感付かれる前にその顔やめろ」
「宿儺〜〜〜」
「甘えるな、アホが」


宿儺の言葉は突き放すような言葉だった。
けれど、その言葉に宿儺の優しさが詰まっていることを私は知っている。だから、また宿儺に抱き着く腕に力を込めた。こうすることが一番心が安らぐって私は知っているから。それに、言葉では突き放しても宿儺はこういう時に私を物理的に突き放すことは絶対しない。「追いつかれる前に帰るぞ」と荷物を持ち直す宿儺。私も宿儺から離れて、帰るための方向を見据えた。宿儺の世界は今日も優しい。その優しさに甘えて、私は今日も生きてる。悠仁が追い付くころにはいつものように笑えますように。そう願って、帰り道の一歩を歩み始めた。