寒い。

そう気づいたのは一限目が終わった時だった。最近暖かい日が続いていたから油断していた。いつも着ていたカーディガンを今日はいいやと言って着なかった自分を呪いたい。上着、と言っても学校にはジャージしかない。ジャージ着てもいいけど、ジャージの上からブレザーを着るという行為を前にやった時は、宿儺にこれでもかというくらい呆れられたので早々と選択肢からは抹殺した。宿儺の着ていたカーディガンを借りることも考えたけど、宿儺も私と同じ冷え性。つまり、寒がりなので、選択肢は「悠仁のパーカー借りる」以外がアホな私には思いつかなかった。


休み時間の間に、と悠仁のクラスを訪れた。私の姿を見つけた、悠仁の友人はすぐに、悠仁に「なまえさん来てるよ」と告げてくれた。机の上に座って、周りの人と談笑していた悠仁は私に気づいてすぐに、会話を終わらせてこちらへと来てくれた。


「どったの?」
「あの、あのね、追剥ではないんだけど」
「おいはぎ?」
「悠仁、替えのパーカー持ってたりしない?」
「ん〜ないけど、今着てるのじゃダメなん?」
「それ脱いだら悠仁寒くない?」
「んーどうかな。わっかんねーけど」


悠仁のクラスに来るまではパーカー絶対借りる!って気持ちだったのに、いざ来てみると周囲からの視線が異様に集まっていて、なかなか「パーカー貸して」って言いにくくてすごく回りくどい言い方をしてしまう。そんな言い方じゃ悠仁には伝わらないのに。察してちゃんみたいでウザいなって思ったから、もう諦めて帰ろうとした。その瞬間、悠仁が「ごめん。ちゃんと分かってっから」と言って、着ていたブレザーを「持ってて」と言って私に手渡した。そして、パーカーを脱ぐと、「汗臭いかも」と言って私に手渡す。


「悠仁だいすき」
「はいはい」

今すぐ悠仁に抱き着きたい気持ちを抑えて、控えめに言葉だけで伝えたのに。それじゃ悠仁にはきっと私の抱えてる大好きの3%くらいしか伝わってなくて、がっかりした気持ちに襲われる。私に言葉だけで悠仁に大好きを伝えられる語彙力があればいいのにな。


「ちょっと悠仁これ持ってて」
「ここで着んの?」
「だって寒くて耐えらんない」

着ていたブレザーを悠仁に託して借りたパーカーを着る。さっきまで着ていた悠仁のぬくもりがまだ微かに残っていて、今まで着てたブレザーなんかもう無用なくらいあったかくなった。


「なまえさ〜〜」
「ん?なーに?」
「そういうの心臓に悪いからやめて」
「え?どういうの?」
「ブラ透けてたし、今だってパーカーでかくてスカート履いてないっぽくみえる」
「え!!!?」


悠仁の容赦ない言葉に急に恥ずかしくなった。悠仁の家ではÝシャツで過ごしたり寒かったら悠仁のパーカー勝手に着たりしてるのに。今更そんなこと言われても、どう反応したらいいのか分からない。


「今更って思ったっしょ?」
「………うん」
「俺とか宿儺だけが居る場所と今居る場所違うからな?」
「はい……」


まるで宿儺みたいな顔で悠仁にすごまれて思わず息を飲んだ。気をつけようと思った。悠仁に嫌われたくないから。


「ごめんな。俺、なまえがエロい目で見られるの耐えられないんだよ」

ハハハ、と声を出して悠仁は誤魔化すように笑ったけど、それが本心じゃないことに気づいたよ。だってずっと物心ついた時にはもう隣に居たんだから。これからは気をつけるから、今日だけは許してほしいの。今日まで、今日だけだから。