最後の一線は俺の手で

「恵くん聞いてる?」

視界をなまえ先輩の手のひらが横切って我に返った。今日、勉強を教えて欲しいとお願いしたのは俺の方なのに、意識がどこかへ旅立ってしまっていたらしい。けど、それはなまえ先輩のせい。流行りなのかなんなのか知らねぇけど、オフショルって言うんだったっけか、肩だした服着てるし、少し屈んだら胸見えそうだし、なまえ先輩の部屋はやたらいい匂いするし。煩悩を誤魔化すために、全く違うことを考えても仕方ねぇよ。


「なまえ先輩、寒くないっすか?」
「え?別に」
「…そうですか」

無難に俺がなまえ先輩のことエロい目で見てるってバレないように服を着て貰うにはどうしたらいいのかって考えたけど、すげぇ難しいなって実感した。こういうとこがむっつりっぽいのか。精いっぱいの気遣いの言葉をスルーされたので、なるべくなまえ先輩を見ないようにシャーペンを走らせる。

が、目が合わないからか、身を乗り出してなまえさんが説明を始める。今見えたのは絶対ブラだと思う。あーダメだ。このままじゃ絶対ヤバい。好きなヤツが目の前で無防備な格好してて、思春期男子に平然としてろって方が無理あるだろ。


「なまえ先輩、見えてます」
「なにがー?」
「ブラ」


俺が言った一言で動揺したなまえ先輩は一瞬で胸元を抑えて固まる。残念な気持ちと同時にたくさんのホッとした気持ちが脳内を支配する。あぁ、ちゃんと俺も男として見られてたんだって。普段、顔色一つ変えずに呪霊を払ってるなまえ先輩もこういう時は動揺するんだな。ちょっと、つーかかなりおもしろい。


「わざと見せてるのか思いましたよ」
「んなわけないじゃん」

もっと俺のせいで顔色乱してくれればいいのに。そんなことを考えてしまって、今度は俺がなまえ先輩の方に身を乗り出した。胸元は防御されてるから、耳の裏らへんをツンと指先でつついた。瞬間、後ずさるなまえ先輩。もっと、欲しい。もっともっとなまえ先輩をかき乱したい。そんな欲望が沸々と浮かんでは消えない。


「そんな反応されると煽られてるって勘違いするんすけど」
「ちが…!」
「もっと触っちゃだめですか?」


首の後ろに右手を這わせて、喉元まで移動させる。肩を竦めながらも、抵抗する気配がない。んな反応されたら調子乗るんだよ、こっちも。顎に手を掛けて、唇の形をなぞるように指先で撫でる。なまえ先輩が、ぎゅっと目を閉じるから、それはOKのサインと解釈して唇を重ねた。ぴく、と反応したなまえ先輩がたどたどしく「ふし、ぐろくん」と俺の名前を呼ぶ。理性のタガが外れる音がした。もう一度唇を重ねて、くっつけただけで離れる。それを数回繰り返す。もっと、もっと、もっと欲しい。そう思って、胸に手を伸ばした。あっさりと受け入れられた俺の手。指先で円を描くように撫でれば、ブラの上からでも分かるほどぷっくりと先端が存在を主張する。


「…なまえせんぱい、」
「ふしぐろく、」
「やばい、止まんねぇ」
「…ッッあ、」

直接触れたくなって、空いている服の隙間から手を差し込む。が、なまえ先輩の手がそれを拒んだ。振り切ろうとすれば簡単に振り切れる程度の力だった。


「ま、まって?」
「やだ」
「伏黒くん…!」
「分かりましたよ」


なまえ先輩に止められたことで、少しだけ冷静になって、現状把握を試みる。目の前には真っ赤な顔したなまえ先輩。そんな顔させたのが自分自身であるという揺るぎないものが、身体の真ん中で熱を持って、また「もっと」という思いが膨れ上がる。


「恥ずかしさで死んじゃいそう」となまえ先輩が両手で顔を覆った。可愛すぎて今すぐ押し倒したい、そんな思いが溢れてしまう。でも、なまえ先輩のこと大事にしたいから、だから、今は「抱きしめるだけならいいですか?」と最大限の譲歩を口にして、なまえ先輩の返事を待った。

いいよ、って言われたら、「好き」の言葉を伝えよう。単純でありきたりな言葉しか言えないけど、俺なりの精いっぱいで。

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