オアシスはどこ?


遅番終わりに残っていた残務を片付けていたら終電を逃した午前0時過ぎ。背に腹は代えられないとタクシーに乗って帰宅。深夜料金割り増しされたタクシー代を払って、家に辿り着いた。外から見て、家の電気が点いていないことは分かってた。それでも、と一抹の望みを残して玄関のドアを開く。シーンと静まり返った部屋。あぁ、七海さんは寝ちゃったんだ。と音を立てないようにリビングへ足を進めた。

疲れた、の言葉の代わりに、ため息を一つ零して部屋の灯りをつけた。テーブルの上には私の分の夕ご飯。わぁ、と思って駆け寄る。と、ソファを追い越して、ようやくソファで七海さんが寝ていることに気づいた。ポケットの中のスマホを見れば、「起きたら起こしてください」のメッセージが届いていた。


「ありがとう、七海さん」

ソファの傍らに座って、七海さんの寝顔をを覗き込む。こんな顔して寝るんだなぁ。無防備な七海さんの顔を見るのは初めてで、私に気を許してくれたのかなって嬉しくなって、「邪魔します」と言って隣に横たわる。ほんの出来心。疲れていて、どうしても七海さんに甘えたくて、眠ったままの七海さんの腕を自分の身体に回した。


「ふふ、セルフハグ〜」
「…それで終わりですか?」
「な、七海さん!起きてたんですか?」
「なまえさんが電気を点けたときから起きてましたが?」
「もう〜〜!」


自分のしでかしたことが恥ずかしいやらなんやらで、起き上がろうとしたけど、七海さんは私の身体に回した手に力を込めて私を離すまいとした。くっついたのは自分の方からなのに、どうしたって照れ臭い。それなのに全然嫌じゃないからやっかいだ。


「随分帰りが遅かったようですが」
「残業してたの」
「ならたくさん甘やかさないといけませんね」
「どうやって?」
「そうですね、どうして欲しいですか?」
「んっと、しばらくこうして居て欲しいです」
「分かりました。では、これはおまけです」

私をぎゅうって抱きしめたまま、片方の手で頭を優しく撫でる。疲れが一気に吹き飛ぶんじゃなくて、じわじわと癒されていくような、まるで疲れた時に入るお風呂みたいな。そんな優しさ。


「七海さん」
「なんですか」
「ただいま」
「おかえりなさい」

ここはきっと私のオアシス。
私もいつか、あなたの、七海さんのオアシスになれたらいいな。