夏はアイス!


夏は暑い。
それは誰にとっても同じ。で、あるはずなのに、私の隣を歩く七海さんの表情は涼しい。暑さくらいで動揺する人ではないのは分かっているけれど、汗一つかかないのはさすがに想定外。私はもうすでに暑さでアスファルトの上で溶けているアイスみたいな状態なのに。


「…ナナミン」
「外でその呼び方はやめてください」
「買い物の前にアイス食べたい」
「…二度とナナミンと呼ばないなら考えてもいいですよ」


そう、今日は長く続いた雨が上がって、急激に上昇し始めた気温に音を上げて、二人暮らしに必要な夏用品を買いに来たのだ。まずは夏用寝具を見て、次にソファカバーを見て、夏っぽいガラスの器を見る。時間が余ったら、私が欲しいバスボムとかき氷機を見る約束。


「ナナミンは呼びたいしアイスも食べたい〜」
「交渉決裂ですね」
「ナナミン〜〜ナナミン〜アイス〜〜〜。ほらそこにサーティワンあるし〜」
「かき氷機買うのでは?」
「かき氷機も買うしアイスも食べたい〜」
「ダメです。どっちかにしましょう」
「ナナミンのけち。アイス食べに連れてってくれないならこのままここで溶けちゃう」
「そうですか。溶けたら抱きかかえて連れて行くので大丈夫ですよ」


私がぐだぐだと歩いているというのに、七海さんは徹底して前へ前へと歩き続けていた。が、七海さんの「抱きかかえて連れていく」の言葉に、人通りが多いこの道で抱きかかえられる自分を想像してしまって少しシャキッとした気持ちになった。


「服、掴んでもいい?」

それでも暑さが和らぐことはない。シャキッとした時間は長くは続かず、歩くのすらしんどくなった私は七海さんの服の裾を握った。すると、今まで一度も私を気にする様子がなかった七海さんがこちらを振り向いた。ん?と首を傾ける。


「夫婦なんですから、そこじゃなくてこちらを掴んでください」

そう言って、服を掴んでいた手を解いて、手を繋いだ。その手のひらはじわりと汗をかいていて、七海さんも人間だったんだ、と失礼なことを思ってしまった。それと同時に自分もきっと手に汗をかいているから、申し訳ないやら恥ずかしいやらで、せっかく手を握って貰ったのにもう離したくなってしまう。


「で、アイス行くんですよね」
「え?ダメって言ったのに…?」
「言いましたが、どうにも私はなまえさんに甘いようです」


視界の端に鮮やかなアイス屋が映る。ふふ、と嬉しさから零れ落ちた笑い声。七海さんは「予定外の行動は好きではないので、速やかに済ませましょう」と言ってまた歩き出した。