二日酔いと真実


「あたまいったい…」

頭痛と吐き気によってもたらされた、その日の目覚めの悪さは過去一だった。
身体に僅かな重みを感じながら起き上がると、私のベッドに頭を預けて眠る七海さんが居て。咄嗟に自分の身体を確認してしまうのは、私が悪い大人だからなのだろう。昨日の夜の記憶が異端リアンレストランで途絶えている。パジャマはちゃんと着ていたし、七海さんももちろん服を着ていた。その事実だけ確認してホッとする。
時計を見れば朝の六時。普段ならまだ寝てる時間だけれど今日はダメかもしれない。だって頭が痛くて仕方ない。水を飲みに行きたい。けど、私が動いたらきっと七海さんも起きてしまうだろう。どうしよう、と頭を抱えていると、「ん…」と小さな声を上げ、七海さんの目がゆっくりと開く。ぼんやりとした瞳で何度か瞬きをしてから、「おはようございます」と優しく微笑む。


「あ、あの、七海さん、」
「なんですか?」
「なんで七海さんがここで寝ているのか伺ってもいいですか?」
「……もしかして何も覚えてないんですか?」


呆れた、と言った感情が七海さんの顔面いっぱいに広がる。記憶がない、と言っても、断片的には覚えている。イタリアンレストランに行って、帰りにテンションが高くなって、噴水のある公園に行って。だから、「何も覚えてない」と言われると、ちょっと違う。覚えていないのではなく、思い出すことが出来ないのだ。


「なまえさんを酔わせると大変だってこと思い出しました」
「え?私、なにかまたやらかしました?今度は離婚しました!とか」
「違いますよ」


七海さんが少し不機嫌そうに顔を背けるから、私は慌てて謝るしかない。七海さんが怒っている姿なんて見たくはない。それにしても一体何をしてしまったんだろう…。お酒を飲むといつもこうだ。だからいつもセーブしていたのに。昨日はついつい調子に乗って飲みすぎてしまった。


「……いえ、いいです。気にしないでください」
「でも何かしたんですよね!?教えてください!」
「もう忘れました。それより体調大丈夫ですか?」
「当たり前に二日酔いです…」
「あぁ…なるほど。軽めの朝食を用意しておくのでシャワーどうぞ」


さも当然のように、私の疑問は流されて話は進んだ。でも、やっぱり気になるものは気になる。「ごはんもシャワーも後でいいです」と言って、七海さんの前に正座した。自分が何をやらかしてしまったのか、はっきりさせておきたい。それが今後のためにもなるはずだ。


「教えてくれるまで動きません」
「……本当に何にも覚えてないんですか?」
「はい」
「じゃあ教えません」
「意地悪言わないでください!」
「逆にどうしてそんなに知りたいんですか?」
「七海さんとこれからも長く一緒に居たいからです」
「そうですか。別に大したことじゃないです。なまえさんがタコ食べたい〜って暴れたくらいです」
「え?」
「それだけです、さぁシャワーに行ってください」


七海さんが私の背中を押してくるから、今度は大人しくバスルームへ向かった。タコ食べたい、言ったような気がする。それだけじゃなかったような気もするんだけど、教えてくれないのなら無理して聞く必要性ももう感じなかった。七海さんが必要だと判断しなかったようなことなんだと納得できたから。その答えに辿り着いて、私はいつの間にか七海さんを信用しているんだって気付いた。少しずつ変わっていく二人の関係性に自分の顔が緩んでしまっているのを感じて、私はバスルームに向かう足取りを早めた。