無防備と言う名の罪


「なまえさん髪が濡れてますよ」

お風呂上りにタオルを首にかけてアイスを食べるのが好き。元カレにそれを咎められることはなかったから別に普通なのかと思ってた。けど七海さんはそれを許してはくれないらしい。私の首に巻かれたタオルを手に取ると、わしわしとその大きな手で髪を拭いてくれる。


「力強くて気持ちいいね」
「そうですか?」
「毎日やって欲しいくらい」
「さすがに毎日は無理ですが、時間が合えばこのくらいやりますよ」
「うれしー」


背後からカチ、と音がして、次に暖かい風が後頭部に当てられる。「熱かったらいってください」って七海さんは言う。その優しさすら心地いい。心を許してる人に頭触られるのってこんなに気持ちいいんだなぁ。美容院でやってもらうよりも気持ちいいと感じるのは、相手への信頼度の違いだと思う。



「ナナミン〜きもちー」
「はったおしますよ」
「えーいいじゃん、ナナミン〜」


多幸感に包まれて、自分でもなんでか分からないけど、七海さんの名前を呼びたくなってしまった。「建人」って呼ぶのはまだハードルが高くて、「ナナミン」って呼んでしまったけど、いつか呼べたらいいな、建人って。


「なまえさん」
「ん〜〜なぁに?」
「アイス溶けてますよ」


心地よさから存在を忘れていた手に持ったままの棒つきアイスが、溶けて水滴を零そうとしていた。慌てて口の中に入れるけど、まだ三分の二が残っているアイスは容赦なく私の胸元へと水滴となって落ちていく。が、ティッシュはここから手を伸ばしても届かない場所にある。髪が乾き終わるまではこのままかなぁ。せっかくお風呂入ったばっかなのにベトベトになっちゃった。


「髪を乾かした報酬頂きますね」

私がアイスの最後の一口を口に放り込んだところで、七海さんが私の胸元に首を埋める。ザラザラとした感触が、胸元を這いまわる。零れたアイスを舐めてるんだって、分かってる。分かっているのに、なのに、どうしたって気持ちいい。


「ナナミン〜〜」
「なまえさん、私に性欲がないって思っているでしょう?間違いですよ」
「ッん、ごめんって」
「お風呂上がりでそんな薄着で居られて、私にどうやって我慢しろって言うんですか」
「だから、ッあ、ごめんって」


ノーブラの胸を服の上から触られて危機感がドバっと湧いてくる。泣きそうになった。そんなつもりじゃなかったから。そんな私の心の内を感じ取ったように、私に近くにあったブランケットを掛けて七海さんは離れる。


「せめてブラはつけてください」
「……はい」
「あとアイスはカップのものにして貰えたら嬉しいです」
「それはなんで?」
「アイスを食べる口がエッチなので」
「…ナナミンのえっち」
「男なんてみんなそんなものですよ」

力任せに手元にあったクッションを七海さんに投げつけた。あっさりとそれを受け取った七海さんは、ソファの上にクッションを置いてドライヤーを片付けに行った。羞恥心を私に受け付けたまま。