冗談と本気の境界線はどこ?


「七海さん、肉じゃがは豚肉派?牛肉派?」
「あまり気にしたことありませんね」
「そっか、ん〜〜どっちにしよう〜〜」

スーパーのお肉売り場でカートを押した七海さんを隣に、夕飯のおかずの肉じゃがの肉を選ぶ。七海さんも料理が出来るって言うから食事は当番制。私も七海さんも仕事の時間が不規則だから(私は夜勤もあるし)、食事は作れそうなほうが作ることに決まった。休みが重なる時は、私が作る。で、今日は、偶然休みが重なった日。


「なまえさんの実家の味が食べてみたいですね」
「それなら豚肉!」
「ならそれで」
「ちょっとめんどくさいとか思ってる?」
「それは全く思ってないですね」


七海さんの知り合いには変な人がいるらしい。お酒が入った夜に、少しだけ愚痴交じりに話をしてくれたことがある。だから大概のことは聞き流せるんだって。どんな人なのかな。「会ってみたい」って言っても「機会があれば」と誤魔化されるだけ。会わせてくれる気なんて微塵もなさそう。ちょっとだけ寂しい。



「あとなに買うんだっけ?」
「朝のパンですね」
「朝はご飯がいい〜」
「パンです」
「ナナミン〜〜!」


そっけない七海さんに甘えるように腕を組む。「特別ですよ」と言って、私を横にくっつけたままカートを押して歩き出す七海さん。子ども扱いされたような気持ちになって、ちょっと膨れてみる。でも、またすぐそれも子供っぽいなと思って、「納豆買おう!」と言って七海さんを引っ張った。


「納豆は一人で食べてください」
「え〜〜」
「朝からなまえさんのこと食べてもいいんですよ?」
「納豆は一人で食べます…」
「あと先ほどから胸が当たってるんですが、夕飯をなまえさんにしてもいいんですよ?」


七海さんはサラッと言ってくる。けど、そういうのに慣れてない私はびっくりして咄嗟に腕を離してしまう。そんな私を見て「冗談です」と七海さんは笑う。冗談だったのか、と思い、もう一度腕を絡める。


「冗談って言ってるうちにやめればいいものを」
「へ?」
「夫婦なんだからそうなってもおかしくないってことですよ?」
「…肝に銘じておきます」

今度は七海さんが私を引っ張る番だった。早く家に帰りたいのか、さっきより早足になる七海さん。ドキドキしながら私は七海さんにくっついて歩く。振り回しているのか振り回されているのか。どっちなんだろう。どっちでもいいかな。楽しいんだから。