Day.1


今年に入ってあっという間に一か月が過ぎようかと言う1月の月末、任務がない傑、悟、それと私は教室で昼ご飯を食べていた。硝子は任務がないなら午後はフケると言って帰ってしまった。午後は体術の授業だから、それも仕方ない。止める人間は誰も居なかった。昼食のメロンパンをかじりながらメールをチェックしていると、また知らないメアドからメールが来ていてため息を零す。食事の時に携帯チェックなんかするんじゃなかった。

「どうしたんだい?」

携帯を伏せて机に置いた私を気遣う傑。こういう時の傑は勘がいい。無視していたら収まるかと思っていたけれど、これはいいタイミングだ。相談してみよう、と私は口を開いた。


「最近変な人からメールが来るんだよね」
「ストーカーってやつ?ウケんね」
「そんな可愛いもんじゃないよ」


私の一言に二人は顔を見合わせる。食べかけだったメロンパンを机に置いて、さっき届いたメールを二人に見せる。うえ、という顔をする二人。それはそうだろう、「いつも見てるよ」という文面と私がコンビニで買い物をしている姿を撮った写メが添付されていたのだから。


「これいつから……?」
「一か月前かな」
「それヤバくねぇ!?警察行った方がいいだろ、コレ」
「うん……」

届いたメールを過去に遡って見ていた悟が心配してくれるけど、実被害はないわけで、これで警察が動いてくれるとはどうしても思えない。そもそも相手も誰だかわからないわけだし……。高専内の写メもあったし、もし相手がが呪術師だとしたら余計に面倒になる気がする。


「でさ、二人にお願いがあるんだけど」
「なに?」
「男紹介してくんない?彼氏作ったら相手も諦める可能性あるし」
「……なんでそうなるんだよ」

嫌そうな声を出す悟の横で、傑は「なまえ、悟に男友達がいるわけないだろう」と呆れた声を出した。悟は怒りながら「俺にも友達の一人や二人いるし」と反論していたが、紹介してくれないなら別にどうでもいい。再びメロンパンを手にして、咀嚼する。まだ半分ほど残っているメロンパンには申し訳ないが、もう食欲すら半減していて最後まで食べられる気がしない。


「……じゃあ傑は?」
「私?生憎私にも紹介できそうな友人はいないかな」
「そっかぁー」
「やっぱり警察、あるいは夜蛾先生に相談してみたらどうかな?」
「うーーん、七海と灰原に聞いてみてダメだったらそうしようかな。七海、彼氏役やってくれないかなぁ」
「彼氏役でいいなら傑でよくねぇ?」
「私?」
「七海よりは彼氏っぽいだろ」
「まぁおもしろそうだし私は構わないけど」
「マジで!ありがと!!」


おもしろそうの言葉は腑に落ちないけど、相手が傑ならもし相手が呪術師だったとしても何とかなりそう。よかった、と胸を撫でおろしたところで、食欲が復活してきた。残りのメロンパンをおいしく頂き、午後の授業に備えて準備を始めた。


* * *


授業を終えて寮に戻り、シャワーを浴びてベッドへダイブする。今日は体術があったせいか疲れた。明日は座学だけなのでゆっくりできると思うと少し気持ちが楽になった。携帯を開くとまた知らないアドレスからのメールが届いていた。「今日も見ていたよ」のメッセージと共に私がコンビニで捨てたレシートの写メが添付されていて、背筋が震えた。

けど、私も今までの弱気なままの私じゃない。初めてメールに返信をしてみることにした。『彼氏がいます。もうこういうことはやめてください』と。送信ボタンを押すと、紙飛行機の絵がディスプレイの中で飛んでいた。これで少しは変化があるといいんだけど。結局メールに返事はなかった。

偽彼氏大作戦は、こうして始まりを迎えることとなった。