朝におやすみをしよう


携帯のアラームに起こされ、後5分と寝返りを打つと、そこにはすやすやと気持ちよさげに眠る悟の姿があった。びっくりして、急に目が覚めてしまった。抱きしめるように首の下には手が回されていて、一体いつから居たのだろうと不思議に思う。

この腕の中に居ることを気持ちいいと思ったのはいつからだっただろう。ふわふわの細い髪に手を伸ばすと、少しだけ痩せた顔がはっきりと見えた。また硝子と飲んで、連絡もしないで私のところに来たんだ。腕の中をそっと抜け出すと、床に脱ぎ捨てられた悟の服が散らばっていた。それをかき集めていると悟の匂いに混じって、タバコの匂いがした。服を洗濯機に放り込んで、自分もパジャマを脱いでバスルームへ向かう。起きて湯船に浸からないと一日が始まった気がしないようになったのは、悟とセックスをするようになってからだった。

「あー、ねむい」

湯船の中でバスボムがしゅわしゅわと溶けていく。お湯がみるみる乳白色に変わっていって、自分の体が見えなくなっていく。それはまどろみに踏み込んでいくような、そんな気持ちで。悟への思いに似ていると思った。進んではいけない場所への一歩を踏み出して、ぬかるみにハマってぬけだせない、そんな感じ。ただ楽になりたい、初めはそんな軽い気持ちだったのだと思う。
これ以上考えても仕方ない、なるようにしかならないのだと立ち上がってバスルームを後にする。栓を抜いて抜けていく水分が渦を巻くのを眺めながら体を拭いていると、遠くからぺたぺたとした足音と「なまえ、」と呼ぶ声が聞こえた。


「……はよ」
「おはよじゃないから、服着て」
「…僕の服どこ」
「あーもう」

急いでリビングに戻るとパンツ一枚の悟がぼんやり頭を掻きながら立っていた。濡れたままの頭をガシガシと拭きながら「いつもの場所に置いてあるよ。着てきた服は洗濯した」と言うと、いつもの場所?と言いたげにきょとんとした表情を見せる。いつもそうだ、そうやって甘えれば私が何でもやってくれると思ってる。


「ねーねー、僕の服」
「あっち」
「あっちじゃわかんない」
「あー悟めんどくさい」

着替えの入ってるクローゼットの一角にある自分よりサイズの大きな服ばかりが入った場所から白いTシャツとグレーのスウェットを選んで差し出す。あ、あったと他人事みたいに言うから、思いっきりお尻の辺りを蹴飛ばすと「痛いよ」とようやく目が覚めたようなはっきりした声が聞こえた。