君のための人工甘味料


「はい、ダメ。ちゃんとこっち見て?」
「ん、」

ツン、唇を尖らせてあからさまに不機嫌な顔をして彼女は僕を見る。
忙しさを理由になまえに会えなくて二週間。ようやく時間が出来てなまえに会いに来ることが出来た。けど、久しぶりに会ったなまえは全然僕の方を向いてくれなかった。好きじゃなくなった?なんて、ありえないことが一瞬だけ脳内を過ぎったけど、それこそありえない。
正面から見たなまえの顔から、なまえの隠しておきたかったものがようやく明らかになる。目の下の隈、少しだけ荒れた肌。毎日のおやすみの電話の時に、少しだけ元気がないのは気づいてたけど肌に出るほど疲れてたんだね。気づいてあげられなくてごめん。


「無理してた?」
「してないもん」
「嘘つかないの」
「悟に会えたからもう大丈夫」

ニカっと少しだけ歯を見せて笑うなまえ。気をつかわせてしまったのだろうか。はぁ、とため息が零れる。隈、すごいよと彼女の目の下を撫でれば、隠せてるつもりだったのか彼女はふぅと小さく息を吐いた。


「僕に何かできることある?」
「…側に居て欲しい、今だけでいいから」
「他には?」
「がんばったね、って褒めて欲しい」
「ん、他には?」
「そんなにいっぱい貰っちゃったら、また寂しくなるもん」
「ごめん」

顔を引き寄せて、おでことおでこをくっつけた。優しく包み込むように抱きしめると、彼女の頬を涙が一筋零れていった。「お疲れ様、よくがんばったね」とトントンと背中を優しく叩くと、腕の中の彼女の喉が震えた。泣いて、いいんだよ。僕の前でなら。わがまま言って困らせてくれていいんだよ、僕になら。


「なまえ、一緒にお風呂入ろうか?」
「それはやだ」
「なんで?いいじゃん」
「私になんの得もないじゃん」
「僕と一緒に居られるよ?身体も髪も洗ってあげるよ?とっておきのバスボムも入れるよ」
「見返り求められそう」

クスクスと笑いながら、なまえが目を細める。あぁ、僕の大好きななまえだ。安っぽい愛の言葉も言えない僕だけど、なまえに一つだけ伝えさせて。「大好きだよ」と素直な気持ちを。