06

昼食を早くに食べ終わったので、本でも読もうと思い中庭に向かった。いつもの特等席、木下のベンチには先客がいた。パンダ先輩だ。隣にお邪魔していいかと歩を進める。どうやらパンダ先輩は寝ているようだ。そういえば、パンダ先輩が臭いか臭くないかって話になったとき、恵がパンダ先輩はおひさまの匂いがするって言ってたなぁ。お日様のにおいはこうして作られてるんだなぁ。


「失礼します」

あの時は、真希先輩が「くさい!」なんて言うから怖くて嗅げなかったけど、恵がお日様の匂いって言ってたし、とふわふわの胸に顔を埋めた。お日様の匂い、ではないかもしれないけど、獣臭はしない。日干しした布団の匂いだなぁって思ったところで、それがお日様の匂いじゃんって気づいて笑ってしまった。

パンダ先輩の毛は、わたしが思っていたより硬かった。けれど、根元のほうはふわふわで触っていると気持ちいい。小さいころぬいぐるみと一緒に寝たような、そんな不思議な感覚に襲われた。
パンダ先輩の寝息と、包むような温もりに目を閉じた。何も考えずに眠ってしまいたくなった。小さいころの何も知らなかった自分のように。心地よかった。



▽▽▽


「なまえ、なまえ…起きろ!!!」

真希先輩の声で重い瞼を上げた、そこには真希先輩と狗巻先輩、恵と野薔薇が居た。見上げればパンダ先輩が困ったようにわたしを見ていた。


「あれ、わたし寝てました?」
「寝てました?じゃねぇよ、もう午後の授業時間はとっくに過ぎてる」
「しゃけ」
「なまえが寝てるから俺も動けなかったよ」
「あ、ごめんなさい」


未だ寄りかかったままのパンダ先輩から体を起こして頭を下げる。全く覚えてないけど、幸せな夢を見ていた気がする。疲れていた身体がどこか軽く感じた。


「ほら行くぞ」

恵がわたしに差し出した手を取って立ち上がる。一歩外に出れば、わたしたちは呪術師としてひとりでだって戦わなければいけない。けれど、この高専の中では少しだけ緩くて暖かい空気がわたしを包んでくれる。だから頑張れる。この場所を失くしたくない。そう心から思った。