コンビニからの帰り道、ロードワーク帰りの狗巻先輩を見つけた。ちょうど終わりにするところだったのだろうか、目があって微笑みかけられた。


「ツナマヨ？」
「はい、今日発売の新商品欲しくて行ってきちゃいました」
「すじこ」
「絶対おいしいですよ。あとで一口あげますね」
「おかかおかか」

首を振って拒否する狗巻先輩に「絶対おいしいですよ、紅茶ティラミス」と誘惑する。甘いもの嫌いだったっけ？そういえば、狗巻先輩の好きなものとか嫌いなものあんまり聞いたことなかったな。わたしの話聞いてもらうばっかりだったから。


「なんか食べ物の話してたらお腹すいてきちゃいました」
「しゃけしゃけ」
「今日の夕飯なんですかね」
「しゃけ」
「先輩魚好きですね」
「ツナマヨ？」
「わたしはお肉がいいかなぁ」


当然のように二人並んで高専までの階段を昇る。狗巻先輩とのこういう他愛のない時間がわたしはとても好きだ。嫌なことを忘れられる。それは狗巻先輩の醸し出す空気のお陰だと気づくのにそう時間は掛からなかった。だから、狗巻先輩を見つけるとホッとしてしまう。例えそれが戦闘の最中であっても。


「そういえば、飴買ったんですよ。食べませんか？」
「しゃけ」


袋の中から取り出したのは、カラフルなラッピングがされた有名な棒つきキャンディ。勉強するときに食べてると集中できるような気がして、重めの課題が出るといつも買ってしまう。糖分は脳にも疲れにもいいって言うし。

「どっちにします？」
「ツナマヨ？」
「わたしはコーラかなぁ」
「明太子」


取り出した二つはストロベリークリームとコーラ味。わたしがコーラがいいって言ってしまったからか、狗巻先輩はストロベリークリームを選んだ。甘い味が口いっぱいに広がる。それと同時にチャックを下ろした狗巻先輩の紋が目に入ってしまう。紋は何度見ても慣れない。わたしにはそれは鎖に見えてしまう。狗巻先輩を縛り付ける鎖に。
「先輩は嫌になりませんか？」と初めて問いかけてしまった。狗巻先輩は答えの代わりにわたしの頭を撫でた。

狗巻先輩といる時間は甘いものを食べている時に似ている。甘いものを食べ終わって、しばらくするとまた甘いものを食べたくなるように、狗巻先輩とバイバイした後は少し経ってから寂しくなる。今日もきっと、同じ。口の中の飴を噛むとカリ、と音を立てて割れた。