07

「なに見てんの?」

地下室で映画に夢中な悠仁をソファの後ろから覗き込んだ。「なまえ?」と振り返る悠仁は、ちゃんと生きてる。世の中では死んだことにされてるけど。

五条悟のいう人間は多忙だ。それでも悠仁を暫くの間匿うと言う。つまり人手がいる。そこでわたしに矛先が伸びてきた。自分が不在の間、悠仁の世話をして欲しいと。もちろん最初は断った。「なまえにしか頼めない」と憎らしい笑顔で言ってきたからとりあえず殴った。けれど、「宿儺が出てくるかもしれないよ」と言われれば、わたしは引き受けざるを得ない。


「どっち食べたい?」
「どっちも!」
「了解」

コンビニで買ってきた幕の内弁当とハンバーグ弁当。まずはハンバーグ弁当を開けた悠仁は大きな口を開けてそれを食べ始めた。こうやって男子が食べてることをじっと見ることなんてないから、物珍しさからその姿を眺めてしまう。


「そういえばさ、なまえと五条先生って似てるよな」
「は?」
「ごめん、言っちゃいけなかった?」
「親戚。すぐバレるだろうしいいけど」


そっかぁ、と言いながらも口は動かしたままで、一つ目のお弁当はもう既に空っぽだった。次の弁当に手を掛けながら、悠仁は言葉を続ける。


「五条先生と親戚って嫌なの?」
「親戚ってことは別にいいんだけど、似てるって言われるのが嫌」
「ふーんそんなもんか」
「宿儺と悠仁が似てるって言われるくらい嫌」
「あーそれはやだな」

多分、きっと、絶対、お互いの言葉の認識は違っていた。けれど、理解してもらえたようで、もうそれでいいやってなった。幕の内弁当の唐揚げを摘まんで、「でもなまえのほうがかわいいよ」と悠仁が笑顔を零す。無邪気か。天然か。比べられるのは嫌いだけど、こうして自分が優位に言われることはないので少し嬉しい気持ちになった。


「デザートあるけど、食べる?」
「食う!ありがとな!」

自分用に用意していた、コンビニのロールケーキ。袋から取り出して、お弁当の横に置いた。思春期の男子の胃袋は底なしだなぁ、とまたお弁当の中身が悠仁の口の中に吸い込まれていく様子を眺めていた。