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「ごちそうさまでした」

なまえが満足そうに両手を合わせた。皿の上には何も残っていない。綺麗に食べられている。なまえは不服そうだったし、俺も不本意ではあったが、五条先生と一緒に食べる飯は不思議と懐かしい気持ちになった。それは多分、小さい頃に戻ったかのような錯覚に陥るからだと思った。



「ねぇ、恵。洗い物はわたしがするね?」
「いいよ別に。後片付けも料理のうちって言うだろ」
「でも、」
「なまえはお客さんなんだから大人しくしててくれ」
「……わかった」

しゅんとするなまえを見て思わず笑みがこぼれそうになる。可愛くて、愛おしくて仕方がない。俺も大概だなと自分に呆れた。
洗い場に持っていくために皿をひとつに纏めていると、五条先生が「じゃあ僕も」と言って皿を重ねて来た。この人も大概だと思う。図々しいところも昔から変わらない。

「五条先生は自分でやってください」
「えぇ〜」
「ていうか、何しに来たんですか」
「そりゃあ可愛い教え子に会いにだよ」
「ウソばっかり」
「ほんとだって」
「嘘ですよね」
「……なまえのところ行ったら居なかったからここかなって思って邪魔しにきただけだよ」

ほら、やっぱり。この人は本当に素直じゃない。本当は俺となまえの関係が気になって仕方ないクセに。
この人のなまえに対しての接し方は時々異常なんじゃないかと思う時がある。執着心というよりかは独占欲に近い。まるで自分のモノのように扱う。
食器を流し台に置いて蛇口を捻った。水を出そうとすると、隣にいる五条先生の手が伸びてきて水が止まる。
驚いて横を見ると、真剣な顔つきをした五条先生がいた。


「恵さぁ、なまえのこと好きだよね?」

五条先生がシンクに寄り掛かり唐突に言った言葉に心臓が大きく跳ねた。なまえに聞こえると思って、なまえが居る方を向けばちょうど誰かと電話の最中で俺たちから一番遠い場所に居た。よかった、聞かれてはいない。
俺は無言のまま、もう一度水を出して手を洗う。泡だらけの手で、何度も擦り続けた。泡と一緒に思いも吹っ切れた。売られた喧嘩なら買うしかないとばかりに口を開いた。


「なまえのこと好きなのは五条先生のほうなんじゃないですか?」
「僕?僕はなまえのことだぁぁいすきだけど?」
「そうやっていつもふざけて誤魔化してますよね?」


こういう時目隠しで表情が読み取れないの、ズルいと思う。怒ってんのか笑ってるのかわかんねぇ。逆に五条先生には見えてんだろうな。俺の呪力が揺れたことも。全部。


「そんなことないけど?」
「どうせ今も俺を試してるんでしょ?」
「なんの?」
「俺がなまえのことを好きかどうかです」
「いや、それについては確信持ってる。だから、忠告しに来たんだよ」
「……どういう意味ですか?」
「恵になまえはあげない」

反論の言葉も口に出来ないほどの殺気を纏って、丁寧に放ってくるあたりタチが悪い。わかっている。これはただの牽制だ。これ以上踏み込むと容赦しないという警告だ。いつかこの人に言われた「本気でやれ。もっと欲張れ」という言葉が脳内に蘇った。導火線に火が点いた。


「別にいいです。なまえに俺を選ばせます」
「言うようになったね、恵」

五条先生はまだ何かを言いたそうにしていたけれど、電話を終えたなまえが「終わった?やっぱり手伝おうか?」と戻ってきたことで会話は終了した。なまえは、なまえだけは誰にも譲りたくない。例えそれが最強であっても。