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任務でしんどいことがあった。
普通に任務で楽しかったことなんて一度もないけど、今回のは結構ココロが痛むようなそんな感じのしんどいやつで。
寮に帰って来てもしんどさは抜けなくて、ぶらぶらと自販機に飲み物を買いに出た。ちょうど階段に差し掛かったところでパンダ先輩が向こうから歩いてきた。


「なまえじゃん〜〜!浮かない顔してんな〜」
「……だって」
「ん〜?話聞いた方がいい系?」
「できれば」

ぎゅうっとパンダ先輩に抱き着けばふわっとした感触といつもと変わらないおひさまの香り。安心、安全、安定のパンダ先輩に日常が戻ったような気持ちになって少しだけ気持ちが落ち着いたような気がした。
パンダ先輩はわたしを抱きしめ返しながら背中をさすってくれて、なんだか小さい子扱いされている気分になるけれどそれが今は心地良い。


「何があったのか聞いてもいーい?」
「えー……」
「だめ?」
「……ダメじゃないです。でもあともうちょっとだけこうさせてください」
「おかか」

ほんのり夢見心地でいるところで制服の首根っこを掴まれて後ろに引っ張られる。首元が締まって苦しい。ぐぇって声が出た。
振り向けば棘くんが居た。よろけたわたしを受け止めて、それから自分の腕の中に閉じ込めるみたいにして抱きしめられた。


「いくら、ツナマヨ!」
「うん。ありがとう。今日ね、すごく嫌なことがあって。それで疲れちゃったみたいで」
「ツナツナ」

ぽん、と頭の上に置かれた手が優しく揺れる。棘くんは優しい声で大丈夫だよと言ってくれているようだった。
その言葉に安心して目を閉じる。呪霊と闘う日常なのに、ここに居る人たちはみんな心が優しくて暖かい。
だからきっとわたしみたいな人間にも居場所があるんだろうなって思ってしまう。
しばらくすると今度は狗巻くんの腕の中から引き剥がされた。いつの間にか真希さんがそこにいて、わたしのことをぎゅーっと抱きしめてくれていた。

「なまえはわたしの妹分だ。癒すのもわたしの役目だ」

真希さんの背中に手を伸ばして彼女の身体を抱き締め返した。がっしりした身体は長年の鍛錬の賜物なのだろう。頼りがいがあって、本当にこんなお姉ちゃんが居たらよかったのにと願ってしまう。
ないものねだりばかりしてしまうけど、結局大切なものはいつも近くにあって。ここが自分の帰る場所なのだということを思い知るのだ。

「おかか!」
「あぁ!?うるせぇぞ棘!!」
「高菜!!明太子!!!」
「あっ、おいなまえを取るな!」

棘先輩が真希さんの腕の中にいたわたしの腕を引っ張って自分の腕の中に引き戻した。ぎゅうってまた強く抱きしめられて、痛いくらいだけど不思議と嫌ではない。
こんな風に誰かに甘えることが自分にもあったんだなあって思う。今まで知らなかっただけで実はずっとそうやって生きてきたのかもしれない。
高専に来てからは、特にこの三人の先輩には迷惑をかけてばかりで申し訳ない気持ちでいっぱいになった。いつか恩返しができる日が来るといいな、そう思いながら先輩たちに身を委ねることにした。