09

「ん〜どれがいいんだろう」

スマホを見ながら家電を見比べていたら、声に出ていたらしい。隣の席の恵は、「どうした?」と読んでいた文庫本を閉じてわたしのほうを向いた。時計を確認するまでもなく、休み時間は始まったばかりだったので時間に余裕はある。家電については、わたしより恵のほうが詳しいだろうとスマホの画面を見せた。


「電子レンジ買おうと思うんだけど、どれがいいかわからなくて」
「電子レンジ?何に使うんだ?」
「タオルあっためたりホットアイマスク作ったりしたい」
「それならどれでも同じじゃねぇの?」
「だよね〜恵のと同じヤツにしようかなぁ」


スマホの画面を消して、机の上に体を倒した。記憶の中にある恵の部屋にあった電子レンジを思い出す。何度も見たことあるはずなのに、四角かったことと黒かったことしか覚えてなくてちょっと笑ってしまう。


「別に同じじゃなくてもよくねぇか」
「使い方わかんなかったり壊れたりした時に恵に頼れるじゃん」
「それ前提なのかよ」
「頼りにしてますから」


ぺし、と額を軽く叩かれた。全然痛くはないけど、その場所を右手で抑えて恵を見上げる。長いまつげが上下して、瞬きをしながらわたしを見ていた。叩かれた額よりも美の暴力のほうがしんどい。精神がやられてしまう。


「ていうかそれしか使わないなら俺の使えばいいだろ」
「さすがにそれは迷惑でしょ」
「普段から居座ってるんだから今更気にしねぇよ」
「そんなに?」
「普通がわかんねぇから比べようがねぇよ」

いやいや、居座ってるって言われるくらい行くってやばいでしょ。思春期の男女ですよ。彼氏じゃないし、兄妹じゃないし、距離感バグってるでしょ。


「やっぱり買いに行く」
「そうか」
「駅前の家電量販店一緒に行ってくれる?」
「結局そうなるんだよな」


文句を言いながらも、「土曜なら空いてる」と恵は言ってくれた。いいように利用しているという人もいるかもしれないけど、わたしはこのつかず離れずのこの関係が心地いいのだ。恵はどう思ってるか知らないけれど、同じ気持ちだといいなと思いながら、「じゃあ土曜日にしよう」と返事を返した。