10

今日は一年4人での任務だった。
三級と四級が複数、二級が一匹。簡単ではないにしろ、そこまで難しい任務ではなかった。わたしが対峙したのは二級の敵で、相性が良かったからか一人で倒すことができた。少しの自信と疲労感を抱えながら、帰りの車にゆらゆらと揺られていた。


「俺に寄りかかって寝るとはいい度胸だな」
「宿儺」

うとうとと夢の世界に誘われていた意識が現実の世界に引き戻される。今日はどこに出てきてくれているんだろうと三人がけの後部座席の真ん中で悠仁の身体を見回した。
今日は右の手のひらだった。


「がんばってたな、女」
「女じゃなくてなまえですよ?」
「そんなこといちいち覚えてられん」

褒められて浮上した気持ちとその他大勢と同じ呼び方された切なさで、プラマイマイナスだ。どんだけ欲しがりなんだ、わたしは。宿儺のことになると本当に欲張りになってしまうんだなって思ったら、ふいに笑えてしまった。


「なにを笑ってるんだ」
「好きだなぁって思って、宿儺のこと」
「相変わらずだな、お前は」
「変わらないですよ、そんな簡単には」
「わからんな」
「わかってください。宿儺が好きです」


怒らせてしまっただろうか。宿儺の言葉は途絶えてしまった。眠っている悠仁の宿儺が出てきてくれた手のひらをそっと持ち上げる。反応がないその場所に自分の唇を寄せた。手のひらと違う質感が唇を通して伝わってきた。すき、すき、だいすき。その唇と5センチも離れていない距離で呪文のように呟いた。怒らせてしまったなら、もう怖いものなどない。


「なまえ、ごめん。恥ずかしい」
「悠仁…」

さっきまでそこに居た宿儺はいつの間にか引っ込んでしまっていた。わたしの耳に届く声は、宿儺のものではなく悠仁のものだった。わたしの手からするりと悠仁の手が重力に従って落ちていく。やっぱりしつこかったのかな、怒らせたのかな。どうしたら、いいのかな。


「なまえ、不安そうな顔すんな」
「うん、」
「宿儺は恥ずかしがってるだけだから」


それはただの慰めの言葉なのかもしれない。けれど、それでも十分わたしは救われた。悠仁はわたしの見えないところで宿儺と繋がっているのだから。それに、さっきまで宿儺が居たほうの手がわたしの肩に置かれて抱き寄せられたから…。見えたような気がするの、わたしには。悠仁の身体に宿儺の紋章が。ただのわたしの願望がそう見えさせただけかもしれないけれど。