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伊地知さんが好きだ。それと同じくらい七海さんのことも好きだ。
だって、七海さんも五条悟の被害者だから。

わたしと伊地知さんは愚痴仲間だけど、七海さんはわたしの尊敬の対象だ。五条悟に振り回されてはいるものの、それを受け流せる。それがすごいなぁって思う。人として尊敬している。兄として崇拝している。誰がどう見ても人間性という点では七海さんは五条悟の数段上だと思う。


「テスト勉強ですか」
「はい、ここ分からなくて」
「あぁ、これはxにこれを代入するんですよ」
「なるほど」


学生の本分は勉強である。呪術師として仕事をしてはいても、わたしは学生である。テスト前は移動の時間すら惜しいと、七海さんと現場へ向かう途中もテキストを開いていた。わたしがあるページで止まっていると、七海さんは気にかけてくれていたのか声を掛けてくれたのだ。そういうところが好き。


「七海さんが先生だったらよかったのに」
「それは無理ですね」
「なんで?」
「私はこれ以上あの人に関わりたくないので」


名前を言ってはいけない例の人みたいに、七海さんは「あの人」と言った。名前を出さなくてもわかる。あの人は「五条悟」で、わたしはその気持ちがよくわかる。


「早くわたしもあの人に関わらない生活がしたいです」
「なまえさんは無理でしょう」
「どうしてですか」
「あの人があなたを離さないでしょう。お気に入りですからね」
「げぇぇぇ〜〜〜〜」

わたしが不満の声を零すと七海さんは「ストレスは体に毒ですよ」と言ってポケットから小さな包み紙を取り出した。「GABAいりチョコです」と七海さんが付け足すように告げる。包み紙を解いて中に入っていたチョコを口の中に放り投げた。じわり広がっていく甘さは、まるで七海さんみたいに優しかった。


「七海さんも甘いもの食べるんですね」
「食べますよ、ストレス社会ですからね」
「じゃあ今度パンケーキ行きましょうよ」
「いいですね、伊地知も誘っていきましょう」


七海さんの口角が少し上がった気がした。今度からわたしもチョコを持ち歩こう。七海さんや伊地知さんに配れるように。