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今日の演習は疲れた。五条悟許すまじ。
憎しみを込めて自販機のボタンを力任せに推した。ガラガラと音を立てて出てきたのは、オレンジジュース。ではなく、おしるこ。いやいやなんでおしるこが高専の自販機にラインナップされてるの?おかしいでしょ。そう思いながら、もう一度小銭を自販機の中に投入する。今度は普通にオレンジジュースを押した。中から出てきたのは今度こそオレンジジュース。プルタブを倒して、喉の奥に流し込んだ。


「お、なまえじゃん」
「パンダ先輩」
「なんで二つも買ってんの?」
「押したのと違うのが出てきたんですよ。いります?おしるこですけど」
「いやいらない」

パンダ先輩に差し出したおしるこは全力で拒否されてしまった。行き所のないおしるこは私の左手にまだ存在したまま。どうしようこれ。捨てる?恵あたりにあげる?


「ていうかここの自販機甘いもの多すぎません?」
「悟のせいだな」
「やっぱり?」
「なまえは?甘いものすきじゃないのか?」
「それなりに好きですけど、あそこまで舌バカではないです」
「舌バカ。ほんとそれだな」


パンダ先輩は話しやすい。だからついつい言葉を紡ぐ口が閉じられない。さっき潤したばかりの喉が渇くほどには話し続けていた。オレンジ色の夕日がもうほとんど沈んでしまうくらいの時間は経っていた。


「なまえ行くぞ」

突然現れた悠仁に腕を引かれた。いやいや急に何と思ったけれど運動神経バカに適うはずもなくパンダ先輩に手を振ってされるがまま悠仁についていった。木々が生い茂る森の入り口まで来たところで、「悠仁離して」と力任せに手を振りほどいた。もうあたりはほぼ夜だというのに森の中まで入り込まれたら堪ったもんじゃない。ただでさえ疲れてるのにこれ以上疲れることしたくないよ。


「で、なに?」
「あれ、なまえ?」
「用があるんじゃないの?」
「…ここまで連れてきたの俺じゃねーよ。宿儺」
「え!なんで?もう一回変わってよ!」


ポリポリと頭を掻きながら振り返った悠仁は、いつも通りの悠仁だったからわたしをここに連れてきたのも当然悠仁だと思っていた。けどそれはわたしの勘違いで、ここまでわたしを連れてきたのは宿儺だったというのだ。

どれだけ悠仁に詰め寄っても、宿儺は現れてはくれなかった。うぬぼれてもいいなら、ヤキモチ妬いてくれたって思っていいの?出てきて説明してくれないなら勝手にそう思っちゃうよ。ねぇ宿儺。