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今日は前々から予定されていた五条家の当主の誕生日会だった。
我が家は分家だというのに、朝からバタバタと忙しない。分家だからこそさっさと本家に赴き手伝いをしなければいけないらしい。ほとんどのことは使用人がやってくれるのだから、そこに意地で割り込まなくてもいいのにね。

そんなわけでわたしも朝も早くから着物を着せられ、いつもより濃いヘアメイクをされた。鏡の中の自分は五条悟の模倣品でなんだか笑うしかなかった。


「ツナマヨ?」

トントンと肩を叩かれ振り返ると、約束通り和装の狗巻先輩が居た。モスグリーンの着物と羽織は狗巻先輩の色の白さを引き立てていて、かっこいいと思った。口元を隠すために首元に巻かれたグレーのストールも地味ではあるけど、とても似合っていた。どちらもわたしのけばけばしいだけの振袖とは違う。


「わたしも狗巻先輩みたいな色の着物がよかったなぁ」
「おかか」
「そう?似合ってるかな」
「しゃけしゃけ」

今日はガーデンパーティらしいから、庭に行ってみようかと狗巻先輩と枯山水がないほうの庭を目指した。こちらは完全に奥様の趣味のローズガーデンだ。近くまで行くとバラの香りがこれでもかと香ってくる。


「すじこ」
「うわ、やっぱり居るよね。会いたくないなぁ」
「おかか」
「あ、なまえじゃん。棘も来てたの」


会いたくないって思っているほど、相手は気づかないらしい。五条悟はわたしと狗巻先輩を見つけると高そうな革靴を土で汚してこちらに近づいてきた。逃げ出そうにも周りの人間はみんなこちらを見ている。逃げられない。まるで籠の中の鳥。今回は狗巻先輩が一緒なだけましだけど。


「五条先生がいると思いませんでした」
「え〜居るでしょ。普通に考えて」
「いつも忙しそうなので」
「いつも僕のこと気にかけてくれてるの?ありがとう」
「んなわけないじゃん、バカなの」
「まぁ、最強ではあるよ」
「うっわうっざ」
「高菜」


狗巻先輩がわたしの腰を抱き寄せる。まるでもう五条悟の相手なんかしなくてもいいと言いたげに。「明太子」と狗巻先輩が指さした先には椅子があって、そっちに行こうとのことだった。まだ喋り足りなさそうな五条悟に背を向けて歩き出す。


「僕にはエスコートさせてくれないのになんで棘には腰抱かせるの!やーらしー!」


背後から教師らしからぬ言葉が聞こえてくる。言い返そうと振り向こうとしたところで、耳元で狗巻先輩が無視しようというような言葉を呟いた。この日、わたしは初めて本家の催しが楽しいと思えた。全部、全部、狗巻先輩のおかげだった。