23

「ツナマヨ〜」

野薔薇と買い物に行く約束をして、支度に手間取っている野薔薇を談話室で待っていると、どこからともなく狗巻先輩が現れた。後ろ手に隠していたものをわたしの前に差し出し、「こんぶ」と言われた。言われた通りにラッピングを外すと、中から長方形の箱が出てきた。


「カラコン?」
「しゃけ」
「全然思いつかなかった、カラコンなんて」

先日、狗巻先輩と一緒に五条家のパーティに参加した。その時に五条先生と同じ目の色が好きじゃないと言ったのを覚えてくれていたのだ。狗巻先輩が外出するのをあまり見ないものだから、「わざわざ買いに行ってくれたんですか?」と問いただしてしまった。


「しゃけ」
「お、お金払います」
「おかか」
「じゃあ、お礼。なにかお礼させてください」
「おかか」


ぽんぽん、わたしの頭を優しく撫でて、目を細める狗巻先輩。なんだこの人、優しすぎるだろ。優しくされるのには慣れてないから、緩みまくっているであろう顔を自分で想像して恥ずかしくなった。両手で口元を隠していると、狗巻先輩に「ツナマヨ?」と顔を覗き込まれた。


「カラコン、つけてきてもいいですか?」
「しゃけ」
「待っててくださいね」

カラコンの入った箱を持って自室に戻る。昔、コンタクトをつけていたことがあるから、着け方は知ってる。その後、なぜか視力が回復してコンタクトをつけることはなくなったけれど。勘は鈍っていなかったようで、コンタクトはすぐに入った。鏡の中の自分を見れば、黒い瞳の自分がいて、何度も瞬きを繰り返してしまう。嬉しい気持ちを抱えて狗巻先輩の居る談話室へ向かった。


「狗巻先輩見て〜」
「しゃけしゃけ!」
「すっごい嬉しい。今日これで出かける!」


自分なのに自分じゃない衝撃に、本当に文字通り心が躍った。七海さんもそう、ここにはわたしのお兄ちゃんがたくさんいる。自分のことも五条悟のことも変わらずに嫌いだけれど、この場所と周りに居る人たちはみんな好きだなって思った。