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なまえが雨に濡れて風邪を引いたからなまえの部屋までなまえを運んでほしいと硝子さんから俺と虎杖に連絡が来た。医務室と書かれているが実質治療室となっているその場所に行くと、廊下に五条先生が立っていた。珍しく濡れている。それにアイマスクも外しているその姿は普段お茶らけている五条先生とは違う人物に見えて、声を掛けることを躊躇った。


「…五条先生、入んないすか」
「恵」
「なまえ、いるんですよね」
「いるよ」


いや、あんたにそこに居られてると入りずらいんだよ。俺はなまえが五条先生のことを嫌いなことも、なんで嫌いなのかも知ってる。けど、五条先生がなまえのことをどう思ってるかは知らないし、二人に具体的になにがあったのかは知らない。察しろってことかと思ったけど、めんどくせぇから気にすんのはやめた。つもりでいた。

けど、これは気にすんなってほうが無理な話で、だからって「なにがあったんですか?」って聞くのも癪だ。ここは能天気な虎杖が来るのを待つのが無難だな。


「恵さぁ、なまえの看病頼んでいい?」
「はぁ?自分でやればいいじゃないですか。親戚なんだから」
「まぁそうなんだけどね〜僕嫌われてるじゃない」
「嫌われてますけど、五条先生そんなこと気にする人でしたっけ?」
「まぁまぁその辺は深く考えないでよ」


あ、誤魔化した。瞬間にそう思った。いつの間にかいつもの雰囲気に戻ってやがるし、本当は面倒なこと押し付けたいだけなんじゃねぇのか、これ。


「なまえはさ、僕が嫌いなんだよ」
「それはさっき聞きました」
「僕に看病されるくらいなら死ぬほうがマシとか言われたら辛いからさ」
「……でも、」
「だから恵行ってよ」


本当に一瞬だったと思う。五条先生が顔を曇らせた。なまえのことがすごく大事なんだって、その表情から伝わってきた。これ以上嫌われたくないんだって。シン、と静まる廊下は、物音ひとつしてこなくて、自分が唾を飲み込む音さえ響きそうでひどく居心地が悪い。


「別に五条先生に頼まれたから看病するわけじゃないですからね」
「うん、ありがと」
「五条先生もさっさと着替えてきてください」


先生に背を向けて、トントンと医務室のドアをノックした。「どうぞ」と言う硝子さんの声は変わらず淡々としていた。扉を開けて、中に入る。ベッドに横たわるなまえはきっと何も知らない。自分が五条先生にどれくらい大事にされているのかってことを。それを知ったら、なまえがどうなるのかなんて考えたくなかった。自分以外の人間に感情を揺り動かすなまえを、きっと見たくないんだ。俺は。