26

虎杖が到着して二人でなまえを寮まで運んだ。何度も入ったことのある部屋だけど、一応釘崎に中を確認してもらってから部屋に入った。ベッドの上になまえを寝かせて、虎杖と顔を見合わせる。看病すると宣言したはいいものの、まず何からしたらいいのかわからない。硝子さんは、「起きたら飯食わせて薬飲ませろ」って言ってたけど。


「なぁ虎杖、風邪引いたことあるか?」
「あーんーー、ない!」
「俺もだ」
「あんたたち本当に人間?」


訝し気に釘崎が俺と虎杖を見た。熱があるからか、雨に濡れたからか、なまえはすごく寒そうにしていた。ベッドの上に目もあけずに横たわるなまえは、津美紀を思い起こさせた。といっても、津美紀の場合はただ眠っているように見えるので、苦しんでいるなまえは生きている感覚がして少しホッとする。


「もういいから冷えピタとか買ってきて。必要なものはLINE飛ばすから」
「釘崎」
「なによ」
「俺、ここに居てもいいか」
「はぁ?私が居るから別にいなくても」
「なまえが目を覚まさないんじゃないかって怖いんだ」


その言葉は体からするりと出てきた。怖いとか何言ってんだって、きっと素面の俺だったら思ったと思う。けど、無性に怖くなって側を離れたくなくなったんだ。そこに理屈なんかなくて、ただなまえが目を覚ますまでここに居たいってそう願った。


「まぁいいけど」
「悪い」
「それなら私は虎杖と買い出し行ってくるから、ちゃんと見てなさいよ」
「分かった」
「…帰ってきて悪化してたら」
「たら?」
「呪うからね」


呪術師らしからぬ発言を残して、釘崎は虎杖を連れて部屋から出て行った。残された俺は、なまえのベッドサイドに座って、その手を握った。熱い、その手のひらは生きてることの証明だった。寒い寒い、とうわ言で呟くその手のひらを握っていることしかできなかった。俺は無力だ。



「なまえ、がんばれ」


返事は返っては来ない。ただ俺が勝手に心配して、ただ勝手にこうして祈ってる。そこにある感情の名前を俺はまだ知らない。


「……めぐ…み」
「ん、いる」

その瞬間、握り返された手を力任せに握り返した。「いたいよ」とか細い声でなまえが呟く。あぁ、こんなに脆くて、こんなにか弱い。普段どんなに対等に戦っていようとなまえは女なんだって思い知らされる。
それと同時に、俺が知らないなまえを知っている五条先生が俺に「なまえを頼む」って言ったことを思い出す。頭がもやもやした。端的に言えば、解せない。難しく言えば、理解不能。


「なまえ、」

呟いた言葉はなまえに届いたのだろうか。静かな室内にはなまえの呼吸音と自分の息をのむ音しか聞こえなかった。