「言い忘れてた」

集合場所に全員揃ったところで、わたしは恵を睨みつけていた。聞いていなかったからだ、五条悟が来ることを。担任だし、100%関わらないで生活することはできない。けれど、不要な接触は断固拒否したいのが、わたしの本音。せっかくの原宿なのに残念至極。


「…伏黒、この人誰?」
「初めまして、なまえです」
「苗字は?」
「それは聞くな。殺されるぞ」
「そっか。俺は虎杖悠仁。よろしく」
「ねぇ、宿儺の器って本当?宿儺出せる?宿儺ってどんな顔?どんな声?」


矢継ぎ早に質問をしていると、恵に制服の襟の部分を引っ張られる。虎杖悠仁くんは、口をぽっかりと開けて唖然としてわたしを見ていた。「落ち着け、名前」と言われて、ぎゅうっと手を握った。


「こいつ、宿儺のオタク」
「オタクじゃない」
「似たようなもんだろ」
「違う、全然違う」
「あの〜二人って付き合ってんの?」
「「付き合ってない」」


わたしと恵の声が揃ったところでパンパンと五条先生が両手を叩いた。制服を正して、次の言葉を待つ。これ以上この人の目に自分が映るのは耐えられない。


「悠仁、どんなになまえに頼まれても宿儺は出しちゃだめだよ」
「ん?なんで?」
「僕は対峙してもどーってことないけどね、なまえや恵も同じかと言われたらそれは違う。周りの人間を巻き込みたくなかったら出さないこと」
「わかった」


なんということでしょう。せっかく宿儺に会えると思っていたのに、宿儺は出してはいけないと。そして、わかったと。今日念入りにしたメイクも、ネイルも、ヘアメイクも全部無駄ということですか。そうですか、そうですね。


「なまえ、」
「ねぇ、もう帰ってもいいかな」
「ダメだろ」
「じゃあ五条悟のこと呪っていい?」
「……ダメだろ」


頭をわしゃわしゃと掻き混ぜて、ようやく現実を受け入れた。大丈夫、ずっと一生会えないわけじゃない。元々会えるなんて、宿儺の器となる人間が現れるなんて思ってなかったから、会うのが少しだけ、ほんの少しだけ伸びただけ。


「そんなに落ち込むなよ、なまえ」
「宿儺様、わたしの宿儺様」
「あいつ勝手に出てくることあるし、そのうち会えるって」
「本当?」
「うん、昨日も勝手にほっぺのところに出てきたし、今も俺の頭の中で喚いてるし」
「嘘でしょ?」
「信じて」


どうしてだろう、今日会ったばかりなのにこの人の言葉を信じようと思ってしまった。人嫌いなわたしは人を簡単に信用しないのに、どうしてだったんだろう。理由は分からなかったけど、わたしは虎杖悠仁を信じたし、そして宿儺にもすぐに会えることとなる。

それはまた別のお話。