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「おかか」

なまえを恵と悠仁に託してブラついてたら、棘に見つかって呼び止められた。その目は責めるような、普段とは違う眼光をしていてスルーして立ち去りたくなるほどだった。なまえが倒れたことを聞いて来たんだろう。誰に聞いたんやら。


「棘もなまえのところ行きなよ」
「おかか」
「僕に用?なに?」
「高菜」
「は?どういうこと?」


棘が言うには、棘となまえがお見合いをすることになったらしい。この前のパーティで二人をみた老人たちが決めたのだろう。やっとさっき言っていたなまえの話が理解できた。そういうことね。


「すじこ」
「どう頑張っても僕も棘も種馬にしか見えてないよ、あいつらには」
「明太子、」
「そう、なまえのこともね」


気に入らない。自分に降りかかる火の粉ならいくらでも払うことができる。それを見越して棘となまえに目をつけたのは褒めてやりたい。けど、方法が間違ってんじゃねぇの?俺の名前もきっと勝手に使ってんだろ。くっだらねぇな。


「ツナマヨ?」
「いいよ、行かなくて」
「しゃけ」
「棘にもなまえあげるつもりないし」
「は?」

昔から全然変わらないボケ老人たちの挙動に思わず本音が零れた。不快を隠そうともしない俺の雰囲気を棘も察して、端正な顔を歪ませた。そんな目で見るなよ。睨むべき相手も憂うのも憎むのも相手は俺じゃない。


「なまえは恵と悠仁が部屋に運んだからそっち見舞ってあげてよ」
「おかか」
「僕はどうしよっかな、ちょっと出かけてこようかな」
「明太子」
「いいよ、棘は来なくても」


平常心を取り戻そうといつものような口調に戻すと、棘が何か言いたげに僕を見る。口元を隠すためのジッパーに手を掛けているところを見ると俺に口撃するつもりか?めんどくせぇな。


「棘も関わってはいるけどさ、これは五条家の問題だから一旦僕に預けてよ」
「おかか」
「こういうのは大人の仕事だから」


ポン、棘の肩に手を置いて、歩き出す。雨はもう止んでいた。服を着替えて出かけようか。伝統を重んじる融通の利かない人間たちのところへ。