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「なくなった?」
「しゃけ」

あの雨の日から三日。ようやく起き上がれるようになったころ、狗巻先輩が今回のお見合い話の結末を教えてくれた。お見合い相手すら知らず痴態を晒したことが今更恥ずかしくなったが、五条悟は一度も現れなかった。

結局、五条悟はお見合いの話を知らなかった。そして、全てはこの前の当主の誕生日パーティでわたしと狗巻先輩が一緒に居たことが原因だったらしい。それを見て、年頃も身分も同等なのだから結婚させてしまおうと考えた、らしい。全て憶測なのは、五条悟が本家で有無を言わせず全てなかったことにしてしまったから。


「相手が狗巻先輩ならしてみてもよかったかも」
「おかか」
「失言でした」


ベッドサイドに胡坐をかいて座る狗巻先輩はちょっと不機嫌そうにわたしを小突いた。痛くはないけど、怒っているよと伝えるように。


「でも全然知らない人と結婚するくらいなら狗巻先輩がいいって思ったのは本当ですよ」
「ツナマヨ?」
「すっごい年上の人とか無理じゃないですか」
「しゃけ…」


こくこくと頷いてわたしの言葉を受け入れてくれる狗巻先輩。あんなに醜態さらして、風邪ひいてみんなに迷惑かけたのになに言ってんだって感じだけど、本当にそう思ったんだ。愚かなわたしの頭の中ではそんな答えしか出なかった。本当に愚か。


「でもわたしの目標は宿儺の嫁ですからね!」
「おかか」
「止めても無駄ですよ」
「ツナツナ」


くしゃって顔をして狗巻先輩がわたしの頭を撫でた。どんなに抗ってもそうやってわたしを甘やかしてくれる狗巻先輩がわたしは大好きだし、この空気感を作り出せてしまう狗巻先輩にはきっと絶対ずっと適わない。だから、わたしは狗巻先輩に甘えてしまうし、いつかわたしに甘えて欲しいとも思ってしまう。


「ツナマヨ?」
「狗巻先輩、」
「高菜?」
「いつかどうしても結婚しなきゃいけなくなったらわたしのこと貰ってくれますか?」
「………」


無言の時間が続いたと思ったら、ぎゅって抱きしめられた。「俺も、」って耳元で狗巻先輩が呟いた。これも縛りになるのかな。呪言になるのかな。言い出したのはわたしだけど。そんないつかが来ない日を夢見ながら、わたしは安心を手に入れた。