29

三日も寝込んだら逆に元気になり過ぎてしまった。明日から学校行ってもいいとの許可を硝子さんからようやくもらった。でも、事の顛末を聞いてしまって、今度は逆に学校に行きづらい。顔を合わせたくないのだ、五条悟と。


「硝子さん、五条先生って今日どうしてますか?」
「なまえが五条先生って言うのは珍しいな」
「もう、からかわないでください」
「本人のこともそう呼んでやるといい、喜ぶぞ」
「絶対呼びませんから。それより今日どこにいるか知りませんか?」
「私がアイツの動向をしってるわけがないだろう。聞く人間を間違えてるよ」


ふふ、と笑いかけられてこちらもつられて笑顔になる。どうしようかと考えていたら、「悟のことは伊地知に聞くといい」と言われて、自分がどれだけ視野が狭くなっていたのかに気づいた。硝子さんにお礼を言って医務室を後にする。
ポケットからスマホを取り出して、伊地知さんの番号を探していると目の前からすごく目立つ人が歩いてきた。本当にどこに居てもすぐわかるなぁ。五条悟は。


「なまえ、もう元気になった?」
「…はい」
「棘に聞いたと思うけど、もうなまえが心配することはなにもないから」
「……ねぇ、五条先生」
「ん?」
「ありがとう」


全身が痒くなるくらい気恥ずかしかったけれど、世話になっておいてお礼すら言わないのはわたしの流儀に反してる。五条悟はアイマスクを外してぱちくりとその大きな瞳を上下に動かした。そして、顔を鼻先まで近づけると「熱まだある?」と言って額をわたしの額にくっつけた。


「ちっか!」
「もう一回硝子に診てもらわないと、」
「もう大丈夫だし、自分の意志で先生って呼びました」
「うんうん、つまりもう僕のこと好きってことだよね」
「いえ、嫌いです」
「え〜〜」
「でも、今回のことは感謝してます」


本気なのか冗談なのかわからないところが、やっぱりわたしは苦手で好きにはなれない。けれど、それはそれで先生としてや術師としては信頼してもいいんじゃないかって思えたのもまた事実で。切っても切れない仲なのなら少しは歩み寄ってもいいんじゃないかって思えてしまったんだ。


「今度の一年懇親会はなまえも行こうね」
「あ、六本木で立ち食いのビフテキ食べたやつ?」
「なまえも行くならザギンで回らないシースーかな」
「別に行くとは言ってないけどね」


カタツムリ並みのスピードかもしれないし、後退することがあるかもしれないけどよろしくね、先生。