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高専の女子寮のお風呂はそれなりに大きい。
多分、五条悟と七海さん、パンダ先輩と狗巻先輩が4人同時に余裕では入れるくらいの広さだ。だから逆に一人で入るのが寂しくて、わたしはいつも野薔薇と入ることにしている。普段、呪霊と戦っているくせに何が怖いのかと聞かれたが、それはそれ、これはこれだ。裸で襲われたら困るというもっともらしい言い訳をしたら、「バカね」と言いながらも野薔薇は一緒に入ってくれるようになった。今日も今日とてそれは変わらない。


「なまえ胸大きくなったんじゃない?」
「そうかな、自分じゃ全然わかんない」
「誰かに揉ませてんの?」
「揉んでくれる人なんかいないし」
「まぁいいわ、新しい下着買いに行きましょ?」
「野薔薇が買い物行きたいだけでしょ〜」
「私は自分を着飾るのが大好きだけど、なまえを可愛くするのも好きなの」
「野薔薇〜すき〜」
「裸なんだからくっつくな」


湯船の中で行われる女子トークはいつも楽しい。疲れている時は二人ただ無言で30分入っている時もあるけれど、そんなこと本当に稀でわたしと野薔薇は半身浴も兼ねていつもこうしてお風呂で女子トークをして過ごす。そのお陰か最近少し痩せた気がするし、肌の調子もいい気がする。野薔薇様様だ。


「私さぁずっと思ってたんだけどなまえの下着って地味よ」
「え?そう?」
「宿儺って1000年以上生きてるんでしょ?もっと攻めの下着にしないと」
「攻めの下着って言われてもヒョウ柄しか思いつかない…」
「それもありね。あとTバックとか。脱がせやすいのにしたほうがいいんじゃない?」
「そっか、1000年前にはブラなんてなかったもんね」


野薔薇は生前の宿儺のことを知らない。だから、こういう着物着ていてとか、体にこういう紋様が入っていて、とどんなに宿儺が素敵な人かを説明した。「別に聞きたくないけど聞いてあげるわ」とわたしの話を聞いてくれた。ずっと人にバカにされ続けていたから誰にも言えなかった気持ちをこうして聞いて貰えて、本当にわたしは幸せ者だなぁって思った。


「じゃあ、やっぱり聞くべきよ」
「なにを?」
「宿儺に、どんな下着が好きかを」
「待って、そんなの無理」
「私が聞くから無理じゃない」
「待って待って、野薔薇、のぼせそう」
「バカ!何想像してんのよ、早くあがりなさい!」


野薔薇はお姉ちゃんみたい。優しくてなんでも相談できて、頼りになって。友達って呼べる距離に居た人間がほとんどいなかったわたしだけど、ずっと友達でいて欲しい。頭から冷水のシャワーを掛けられながら、わたしはそんなことを考えていた。