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憂太が一時帰国したと真希先輩から聞かされたのは、お昼ご飯を食べている時だった。びっくりして食べていた蕎麦を喉に詰まらせた。午後からの授業はなかったことにした。というか、午後に授業があることなんかどうでもよかった。それくらい早く憂太に会いたかった。

必死に探し回った憂太は、高専の待合室にいた。しかし、わたしは迂闊に中に入れない。そこに天敵がいたからだ。五条悟への嫌悪感VS憂太に会いたい気持ちは前者の勝ち。だって、憂太を見ているだけでわたしは癒されるから。
窓の外から気づかれないようにそっと部屋の中をのぞいた。話している内容こそわからないけど、そこには旅立った日と変わらない憂太が居て、泣きそうになった。三か月ぶり。でも、きっとまた五条悟に海外に飛ばされるんだ。憂太かわいそう。


ふいに五条悟がこちらに近づいてきた。バレないように頭を下げるが、窓が開く音がして、「今は授業の時間だよ」とわたしに言い放った。


「五条悟に用はない」
「そうじゃなくて授業行けって言ってんの」
「憂太〜〜〜〜〜」
「なまえさん、久しぶり」


五条悟は無視して、窓枠を乗り越えて室内に入る。まっしぐらに憂太に向かって前から抱き着いた。無視された五条悟は後ろから、「抱き着く相手間違えてるよ」とわたしを憂太から引き離そうとする。そんなの無駄と、わたしは憂太に抱き着く腕に力を込めた。それでも、文句を言わず見守ってくれるところが、憂太が憂太である所以なのだろう。大好き。


「今ね、大事な話してるから」
「五条悟は真面目な話はしない」
「するする、全然するからね、僕」
「今日憂太が朝まで一緒に居てくれるって約束してくれたら離れる」
「それはダメじゃないかな」
「なんにもしないし、心配ならわたしの手を縛ってくれていいから」
「変なプレイだと思われるよ?」
「どんなプレイですか??」
「こらこら、教師の前で堂々と不純異性交流の約束しないで。ほら、なまえは離れる」


さっきまでのは全然本気じゃなかったんだなってくらい一瞬でわたしは憂太から引きはがされる。座り心地のいいふかふかのソファに放り投げられて、五条悟の手のひらでその場に押し付けられた。こういうのって何ていうんだっけ。パワハラ?セクハラ?あ、体罰だ。


「体罰で夜蛾先生にチクってやる」
「こんなの体罰にならないでしょ。憂太が証言してくれるし」
「ならセクハラ」
「なまえはこうやって押さえつけられるのが好きって解釈すればいい?」
「いいから離して」


わたしと五条悟のやり取りを眺めていた憂太が、ふふと声を出して笑う。久しぶりに見れた憂太の笑顔は可愛くて、やっぱりわたしの王子様だと思った。


「憂太、三人でならいい?」
「三人プレイだと思われるからダメ」
「だからそれなんのプレイですか??スマブラ??」


五条悟がため息をついて、わたしの頭をググっとまた強く押し込む。亀じゃないんだからそんなに押されても首は体に入っていかないのに。「じゃあ4人!」といえば、「そんなに部屋に入らないよ」と憂太は困った顔を見せる。どうやっても諦めないわたしに、五条悟は「これもう棘連れてくるしかないな」と言ってため息を零したのだった。




どうでもいい裏話



なまえちゃんは、五条悟が好きではないので五条悟を倒してくれそうな人が好きです。
一番はもちろん宿儺ですが、乙骨先輩も同じ理由で好き。百鬼夜行の一件は入学前で詳しく知らないので、夏油さんも好きです。