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今日は悠仁との任務だった。
悠仁が呪霊を祓うことに慣れるための任務であったため、低級呪霊相手ということもあり任務はすぐに終了した。帳が晴れて、伊地知さんに任務完了の報告をすると、伊地知さんは五条悟の任務に駆り出されてしまったという。つまり、わたしと悠仁は電車で帰れということらしい。
帰宅ラッシュの少し前の時間だった。吉祥寺からの快速電車はほどほどに混んでいた。二人並んで座っているところへ、お年寄りが乗ってきた。それを見た悠仁は即座に「ばあちゃん、ここ座んなよ」と席を譲った。わたしも立ち上がった悠仁に続いて立ち上がり、席をお爺さんに譲る。「ありがとう」の言葉が嬉しかった。


「悠仁ってそういうことスマートにできるよね」
「爺ちゃんと住んでたからなぁ。俺の爺ちゃんは年寄り扱いするなって怒るタイプだったけど」


ドアの前に移動して、すぐ降りますみたいな装いを見せて、悠仁は屈託なく笑う。悠仁のお爺さんは悠仁が宿儺の指を飲み込んだ日に死んだんだっけ。まだそんなに日は経ってないのに、こうして故人を想って話せる悠仁を普通に素敵だなと思った。


「悠仁って痴漢とかも捕まえてそう」
「痴漢も引ったくりも捕まえたことあるよ」
「引ったくり追いかけてる悠仁はめっちゃ目に浮かぶ」
「へへ、褒めてもらっちった」
「偉い悠仁には飴ちゃんあげるね」


ポケットの中から飴を取り出して悠仁に差し出す。ありがとうと受け取った悠仁はその包装をすぐに破って口の中に放り込んだ。すぐにカリっと飴の噛む音が聞こえてくる。お互いなにも離さずに窓の外の景色を眺める。景色がどんどん横長になっていく景色を。

電車が立川に着いて、たくさんの人が乗り込んでくる。満員電車に慣れていないわたしと悠仁はあっという間に人の波に押されて、反対側のドアまで追いやられた。傾れ込んでくる人にそろそろ潰れそうと思った時、顔の横に悠仁の手が置かれた。

「なまえのことは俺が守るよ」


耳元で囁かれた言葉は脳にたどり着くまで時間がかかった。きゅ、と悠仁の服を握って大人しく、悠仁が作ってくれたスペースで大人しく電車が次の駅に停まるのを待った。こんなに悠仁と近い距離で居ることなんかないから、無駄に意識してしまう。悠仁の心臓の音とか、呼吸の音とかがすごい近いから。

別のことを考えよう。そして、これが宿儺だったら、なんてことを考え始めてしまった。宿儺だったらきっと、「うじゃうじゃと人がゴミのようにいるな」と言って、指を一振りして皆殺しにしてしまうだろう。
そう考えたらここに居るのが悠仁でよかったって思えてしまって、少し上にある悠仁を見上げた。目が合ってしばらくそのままお互い見つめあう。10秒目が合ったら両想いって言ったのは誰だったっけ。頭の中をそんなことが巡るのに、悠仁から視線が外せなかった。