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「今日学校終わったら恵の部屋行っていい?」

グラウンドのベンチに置かれたタオルを取りながら、隣で同じようにタオルで汗を拭く恵に声を掛ける。別に用事があるわけじゃないけど、今日は金曜日で、ただ一人で部屋に居たくなかった。少し考えた後、「今日は駅前まで本買いにいくからその後なら」と恵は返事をくれる。


「一緒に行っていい?」
「別にいいけど、他人の買い物付き合ってもつまんなくないか?」
「えー楽しいよ」
「そういうもんか」
「そういうもんだよ」


タオルを元あった場所に戻して、ベンチに座る。グラウンドの真ん中ではパンダ先輩と狗巻先輩が野薔薇で遊んでいた。少し離れたところで真希先輩と悠仁も同じように呪具対素手で戦っている。平和だなぁと思う。空が晴れていて、空気も澄んでいて。


「何の本買うの?エロ本?」
「注文してた本。エロ本じゃない」
「恵は動画派かぁ」
「……何の話だよ」
「あ、誤魔化した」
「そんなの知って楽しいのかよ」


楽しい、楽しいか楽しくないか?で聞かれたら、楽しい部類に入るのだろうか。恵がどんな本読んでるのかは気になるけど、別に巨乳が好きでも外人さんが好きでもそれは別に本人の趣味嗜好だからどうでもいい。それは恵個人の問題だ。


「ちょうどいいって思っただけなのかも」
「ちょうどいい?」
「性癖って結構その人の人となりが出るでしょ?」
「東堂先輩と同じ感性かよ」
「東堂先輩って?京都校の?」
「あの人にも同じようなこと聞かれた。どんな女がタイプかって」
「え、マジ?東堂先輩友達になれそう」


今日のお出かけから脱線した話を恵と続ける。恵によれば東堂先輩は女の好みにうるさいらしい。答えなくても怒る、答えてもつまらないと怒る。頭の中までパイナップルで出来てるって恵は言う。前に任務で見かけた時はいい匂いしたし、礼儀正しい人だったけどなぁ。まぁ、恵とは気が合わなそうな感じはする。


「なまえは誰とでも仲良くなれそうだよな」
「そう?そうかな?」
「虎杖もそうだけど、そういうところ凄いと思う。俺には出来ないから」
「悠仁はすごいよね!でも、恵の狭く深くもわたしはいいと思うけどなぁ」
「五条先生とも仲良くなれねぇのか?」
「それはむり〜〜」


そう言って立ち上がる。五条悟のことは恵とは話したくない。というか、誰であっても分かってくれないから話したくない。「そこだけは頑なだな」と後から立ち上がった恵がわたしの頭に手を乗せる。絶対に譲れないものってあるでしょ?恵にとっての津美紀さんみたいに。