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「なまえ、ちょっと付き合え」

恵にそう言われたとき、ちょうど私は夕飯のオムライスに名前を書いているところだった。え?今?と思って、傍らに立っている恵を見上げる。あ、と声を上げてようやく現状を把握した恵は「飯食い終わったあとでいいから」と取ってつけたような言葉を放った。


「恵はもう食べたの?」
「5分で食った」
「はっや。ちゃんと噛んで食べた?」
「うるせぇな。母親かよ」
「違いますけど?友人として心配してるんですけど」


そう言うと恵はグッと次の言葉を飲み込むように口を閉ざした。わたしは「いただきます」と両手を合わせてオムライスを口に運ぶ。


「それおかしくねぇか」
「なにが?おかしくないですが?」

恵が指さしたオムライスにケチャップで書かれた文字は、「両面宿儺」。画数が多いのにうまく書けたと思う。なのにおかしいと言われるのは心外。文字が崩れてしまうのは本当に悲しいけれど、その文字すら愛おしいし、わたしの中に宿儺が取り込まれていくんだから愛でしかないでしょう?


「普通はハートとか書くんじゃねぇの」
「じゃあ恵はハート書いたのね、かわいいかわいい」
「書くかよ」
「わたしもあんたも普通じゃないよ、ここにいる時点で」


まぁそうだな、と諦めたような顔をして、恵はわたしの向かいの席に腰かけた。食べ終わるまでずっと待ってるんかい。そんな大事な用なの?わたしに?え、もしかして。


「恵、いつからわたしのこと好きだったの」
「告白しようとしてねーから」
「なーんだ、残念」
「残念?なんでだ?」
「恵のことけちょんけちょんに振ってやろうと思ったのに」
「お前性格悪いな、五条先生そっくりだ」
「はぁ?」


やっべ、って顔した恵がわたしから目を背ける。わたしの前で五条悟に似てるって言うか?わたしが五条悟を嫌っているって知ってるくせに。

今ここに宿儺はいない。女らしくないと分かっていても、大きな口でバクバクとオムライスを口に運んだ。とっとと食べ終えて、わたしは恵をボコボコにしたい。そういうところがきっと五条悟に似てるんだろうなって自分で思ってしまって少しだけ怒りは収まった気がした。気がしただけだけど。

「よし、食べ終わった。恵、表出ろや」
「演習手伝って欲しかったんだ、ちょうどいい」
「ぼっこぼこにしてやんよ」
「俺が泣かせる」

そうやって売り言葉に買い言葉で食堂を出て、演習場に行ったことを一時間後のわたしは後悔することになるのだが、それはまた別の話。