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「なまえお土産だよ〜」

ノックもせずになまえの部屋のドアを開いた。非常識って思われるかなって気持ちもあったけど、お伺い立てたら絶対扉開けてくれないって知ってるから。親戚なんだから、このくらい許されるでしょ?って気持ちもあったと思う。けど、僕はすぐに自分の考えを公開することになった。そこで見えた光景は目を覆いたくなるものだったから。ベッドの上で眠るなまえと、ベッドの脇に座って本を読む恵は、まさに恋人どうしのそれだった。


「なまえなら寝てますよ」
「見ればわかるよ。それより恵はそこで何してんの?」
「なまえが寝ちゃったんで、本を読んでます」

急に現れた僕に対して、敵意を向けるでもなく非難するでもなく、ただ普通になんでもないことかのように恵は言葉を放つ。距離近くないとか、部屋戻りなよとか言いたいことはたくさんあるのに、どれから言葉にしたらいいのかわからなかった。だって、なまえだよ?僕の、なまえだよ?簡単に誰かが側に居て欲しくない。


「僕が居るからもう恵は戻りなよ」
「いや、俺が居るんで五条先生帰っていいですよ。お土産も預かりますから」
「……なんで?」


自分でも嫌な声が出たなぁと思った。恵のことは嫌いじゃない。だからと言って、なまえの側に置いておきたいかと言われればまたそれは別の話だ。なまえの一番近くにいるのは、自分であって欲しい。なまえの一番大きな感情は自分に向けられていて欲しい。僕の愚かで幼稚なわがまま。


「理由なんていいから」
「良くないですよ。なまえが起きた時、五条先生が居たら困惑すると思います」
「で?本音はなに?」
「え?」

恵の純粋な二つの目が僕を見る。お願いだから、そんな目で見ないでほしい。踏みつぶしてしまいたくなる。もう起き上がれないくらい。なまえの隣に二度と立てないくらいに。
どす黒い感情が、自分の中で湧き上がっていることに気づいて我に返った。この感情は隠さなきゃいけない。自分は保護するべき立場にいて、彼らは保護される側の人間なのだから。今までずっと隠し続けてきた感情は、表に出るべきではないのだから。


「五条先生…?」
「ほらもう夜も遅いし、恵ももう寝たほうがいいよ?」

取り繕った笑顔を恵に向ける。パタンと読んでいた本を閉じた恵が「それはそうですね」と言って立ち上がる。それを気にしないようにして、お土産のイチゴをなまえの部屋の冷蔵庫に仕舞った。恵と目が合わないように。


「五条先生も行きますよ」

備え付けのミニ冷蔵庫の前でしゃがんでいた僕の二の腕を恵が掴む。瞬間、少しの敵意を感じた気がする。そういうことか、と気持ちがストンと落ち着いた。恵はきっと、無自覚になまえのことが好きなんだ。僕の知らないところで、なまえに色んな関係が生まれているんだ。


「知りたくなかったなぁ」
「?なんか言いましたか?」
「いや、恵には関係ないことだよ」
「そういう言い方されると気になります」
「気にすればいいよ」
「なんですかそれ」
「でも、譲らないから」
「全然会話になってませんよ」

なまえの部屋の電気を消して、扉を開く。今はまだ許してあげるよ。なまえが宿儺への感情を恋愛だと勘違いしてるから。けど、恵がなまえへの気持ちを自覚したら、その時は芽を摘ませてもらうからね。

だから、どうか気づかないで。
僕の大事ななまえなんだから。