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「うわぁぁぁあ。もう無理」
「見たいって言ったのなまえだよ?」
「だってゾンビ!こっちくる!ほら!また!!」


雰囲気を出すために少し薄暗くした室内。俺のPCの画面に映し出されるのはホラー映画。真冬にホラー見るのも楽しいんじゃないって言ったのはなまえ。俺がマイルドなホラーを勧めたのに、怖くないなら意味ないってめちゃくちゃ怖いのセレクトしたのもなまえ。なのにさっきから怖がって全然画面見ようとしないどころかずっと叫んでる。そろそろ声枯れるんじゃない?


「怖い怖い。無理無理」
「俺はおもしろいけどな〜」
「こんなに怖いと思ってなかったし!」
「じゃあもうやめよっか?」
「やめない!ちゃんと最後まで見る」


ソファに上のクッションで目を覆って、それでもチラチラと画面を見るなまえ。そんな可愛い姿にホラー見てるにも関わらず笑ってしまう。パソコンから出るブルーの光だけが顔に当たって顔色すら悪そうに見える。用意したポテチもコーラも全然減らない。ただ、なまえを見ているだけで楽しい。

「もう、何笑ってるの!」
「可愛いなぁって」
「え?ゾンビが?」
「なんでそっちになるんだよ」
「違うの?悠仁、宿儺の指も平気で食べるしホラー見て笑うのかもって思っちゃったよ」
「宿儺の指食べたのは仕方なかったの」
「そうなの?」

まだ俺に疑いの眼差しを向けるなまえ。うまそうって思ってアレ食うやついないと思うんだけど。いや、でもなまえなら食べるかな。あり得そうで怖い。食べるまではしなくても、舐めるくらいならしそうな気すらする。考えすぎだったらいいけど、もしもを考えると今見ているホラーより怖くなった。なまえに宿儺の指を見せてはいけない。食べる姿も見せない。そう心に誓った。


「悠仁、ちょっとでいいから手握ってて」
「いいよ」

そう言って差し出された手は冷たかった。だから、なまえがあまりに怖そうだから、と理由をつけて自分の足の間になまえを座らせて後ろからぎゅうっと抱きしめる。クッションを抱えたままだけど、さっきよりは落ち着いたのかびくびくしながらも画面を見る回数が増えたような気がする。


「これで怖くなくなるよな?」
「ありが…ひぃぃいっ」
「やっぱり怖い?」


映画はあと20分。
それまで俺がこの体勢で色んなことが我慢できるか、こっちも勝負。