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なまえとの楽しい時間を終えて、寮に帰った。一息つく間もなく、伏黒の部屋に向かう。私がなまえに変なこと聞いちゃったせいで、軽く失恋したみたいになっちゃったからな。


「釘崎どうした?」
「お前寝てただろ」
「……まぁ」
「優しい野薔薇様がなまえがお前のことどう思ってるから聞いてきてやったよ」
「は?」
「今後に期待」
「どういう意味だよ」
「そのまんまの意味だよ」


自分でもなにをやってんだって突っ込みたくなった。なんで私が伏黒のフォローに回らないといけないんだ。それもこれも、なまえと私が高専で過ごしやすいようにするためなんだけど。ここまでする必要はやっぱりなかったな、と思って、「それだけ」と言葉を掛けて、伏黒に背を向ける。


「釘崎」
「なによ」
「なんだ、その、ありがとな」


男って本当に馬鹿なんだな。私の言葉のどこにありがとうって言われる要素があるんだよ。それでも、人の感謝の言葉は嬉しい。「じゃあな」と手を振って男子寮を後にした。明日からは過ごしやすくなるといいんだけど。

女子寮に戻ってきて、なまえの部屋をノックする。中からもう部屋着に着替えたなまえが現れて「野薔薇まだ着替えてないの?」なんて呑気なことを言ってくる。誰のせいで私が動き回ってると思ってんだ。そんなところがなまえらしいんだから仕方ない。だからコツンと軽く頭を小突いただけで許した。


「どうしたの?」
「顔見たくなっただけ」
「さっきまで一緒にいたじゃん」
「いいでしょ、別に」
「あ、野薔薇。私気づいたんだけど」
「なに?」
「野薔薇が男だったら、迷わず野薔薇を選んでたよ。さっきのカフェでの答え」
「っとにあんたは、」


なまえの頭を今度は少し強めに小突いた。痛いよ〜って頭を押さえるなまえはやっぱり可愛い。絶対幸せになって欲しい。私が認めるような強くてなまえより先に死なないいい男と。


「さっき一緒に飲もうと思ってハーブティー買ったんだけど一緒に飲まない?」
「先に着替えてくるわ」
「じゃあ用意して待ってる」

ゆっくりとなまえの部屋の扉が閉まる。数分後、私は再びこの扉の前に立ってまたなまえの部屋をノックする。少しずつ、少しずつお互いのことを話していこう。私だって、私が男だったらあんたのこと嫁に貰ってやりたいくらいには、なまえが大事なんだって伝えていこう。