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「ラーメン食べたい」

任務の帰り道、なまえがふいに呟いた。こういうときのなまえは思いつきで言ったくせに頑固だ。いつだったか、任務の帰り道にエッグベネディクトが食べたいって言いだした時はカフェを巡って、エッグベネディクトがある店にたどり着くまで連れまわされたっけ。それからしてみたら、ラーメンならそこら中にあるから「いいね!」と簡単に言ってしまえる。


「塩、いや、とんこつ…」
「俺、しょうゆ!」
「駄目だよ、悠仁」
「なんで!?」
「今日はつけ麺の気分」
「さっき塩とかとんこつって言ってたじゃん」
「圧倒的つけ麺の勝利だよ」


なまえが気分屋なのはいつものことだし、ちょっとの理不尽ももう気にならない。あっという間につけ麺に決定された夕飯だけど、文句はちっともなかった。俺はなまえがおいしそうにご飯を食べてるのを見るのが好きだから。


「次は悠仁の食べたいもの食べに行こう!」
「なら肉だな!」
「焼肉?ビフテキ?」
「なまえはどっち?」
「悠仁が食べたいの聞いてるんじゃん〜」


ケラケラと口を開けてなまえは笑う。なまえの笑い方も好きだなって思った。女子のクスクス笑いが嫌いなわけじゃないけど、こうやって分かりやすく笑ってくれる方が好きだなぁ。隣で笑ってて欲しくなる。


「悠仁の食べたいお肉行ったら、次は私のスイーツ食べ放題ね」
「俺甘いのそんなに食べないよ」
「そうだっけ?」
「釘崎とか五条先生とかの方が一緒に行って楽しいだろ?」
「それはそうかもしれないんだけど、悠仁が食べてるの見るの好きなんだよね」


なまえと自分の考えが同じところにあることが嬉しくなった。爺ちゃんしか身内が居なかったから、誰かと飯食うっていうのが楽しかった。みんなと食べるのは楽しかったけど、その中でもなまえは特別楽しかった。みんなで食べたビフテキも、ファストフードのポテトも、鳥団子鍋もおいしかった。でも、やっぱり一番って考えた時に思い出すのは、なまえと食べた飯だった。なんでだろうって考えてもずっと分からなかった。その答えをようやく見つけた気がする。


「悠仁どうしたの?」
「ラーメンにチャーハンつけるか考えてた」
「えー?つけないの?餃子とチャーハンはマストでしょ?」
「食べきれんの?なまえ」
「余裕〜〜」


きっとこれからも俺はなまえが食べてる姿見て好きだなって思って、なまえも同じように好きだなって思って、それを繰り返していくんだろう。前に読んだ漫画で、同じものを好きって言えるのが長続きする秘訣って書かれてたことを思い出す。


「これからも俺とたくさん飯食おうな」
「プロポーズみたいだよ〜悠仁〜〜」
「宿儺と結婚すんだろ?んなこと言うなよ〜」


照れ隠しで宿儺の名前を出して誤魔化した。顔が赤いのは夕日のせいだ。