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午前の任務が終わり、悠仁と「お腹すいたー」と帰りの車に乗り込む。そうなれば二人の話題は当然昼食。伊地知さんが「どこかに寄りますか?」と声を掛けてくれるけれど、今日はそんな気分にはなれなかった。疲れてしまっていて、とりあえず寮に帰りたいの気持ちが勝る。


「悠仁どうする?」
「んーなんか外で飯って気分でもないかも」
「わたしも〜」
「俺作るから一緒に食う?」
「え?いいの?」
「昨日からずっとお好み焼きの気分でさー、お好み焼きでいいなら作る」
「悠仁の作るのなら絶対おいしいじゃん」
「なら決まり!伊地知さんスーパー寄っていい?」
「わかりました」


わたしが誘導したわけでもなく、悠仁がお昼ご飯を作ってくれることになった。地下室生活をしていた時に、五条悟が卓上コンロとホットプレートを購入してくれたっけ。あれどこに行ったのかと思ってたけど、悠仁がちゃんと保管していたみたい。

スーパーに着いて、わたしがカートを押して、悠仁がカゴの中に材料を入れていく。キャベツ一つ選ぶのにも、悠仁は丁寧だ。重さとか瑞々しさとか、一つ一つ違うみたい。違いが全然分からないわたしは、ただその姿を目で追った。まるで母親の買い物にくっついてきた子供みたいに。


「悠仁、あと何買うの?」
「豚肉とタマゴ!あ、なまえ、マヨある?」
「あったと思う!たぶん!」
「多分?」
「わたしの部屋にあったと思うんだけど、恵のとこだったかもしれないと思って」
「なら買って帰るか〜」
「恵も呼ぶ?」


材料はたくさんあるけど、作るのは悠仁だから、決定権は悠仁にある。けど、悠仁なら恵も野薔薇も呼ぼうって言ってくれると思っていた。でも、わたしの浅はかな考えとは裏腹に、口元に手を当てた悠仁は「うーん」と思い悩む様子を見せた。


「やっぱ今日は二人がいい!」
「ん、わかった!」


ふいに感じたほんの少しの違和感。悠仁にも色々あるんだろうな。お好み焼きたくさん焼くのも大変そうだし。
二人でマヨネーズ売り場に向かって歩き出す。ついでにコーラとポップコーンも買った。最後にスイーツ売り場に着いて、甘いものを物色する。


「食べきれんの?」
「甘いものは別腹」
「ならさ、和菓子がいい!爺ちゃんと一緒に居たからたまにすげー餡子食いたくなんだよね」
「いいね〜今日は餡子にしよ〜〜!お団子?どら焼き?羊羹?」
「なまえは?どれがいい?」
「んーお団子と羊羹で迷う」
「ならどっちも買わね?半分ずつ食おう」
「悠仁の一口大きいからな〜」
「いいじゃんいいじゃん、なまえのほうが多く食っていいから」


わたしにキラキラの笑顔を向けてくる悠仁は、さっきと違っていつもと変わらない。さっきの違和感は気のせいだったんだ。そう結論付けて、羊羹とお団子をカゴにいれて、レジに向かう。会計をしながら「伊地知さんにも何か買えばよかったね」って悠仁に言ったら、「買ってあるよ」と缶コーヒーを指さす悠仁。

やっぱり悠仁は悠仁だった。
二つになった買い物袋を一人一つずつ持って車に戻る。一人で全部を抱え込まないところも、伊地知さんのことをちゃんと考えている所も、いつもと何も変わらない。悠仁だった。