65

「めっぐみー」
「おい、食ってるときに飛び掛かってくんな」
「ごめんごめん、何食べてるの?」
「虎杖に貰ったやつ」


悠仁に貰ったやつってなに?と二人一緒にパッケージを確認する。そこに表示されていた名称は『プロテインバー』。恵が自分から好んで食べるものじゃないし、悠仁も自分から購入することもしないだろうから、またパチの景品かぁとあっけなく推測できてしまった。


「なまえも食うか?」
「いらなーい」


いらないって言ったのに、恵はポケットの中からいくつかのプロテインバーを取り出す。赤に水色、黄色に紫。色んな種類があるんだなぁって思ってみていたら、その中にカルシウムバーも含まれていることに気づいた。きっとこれは悠仁の恵に対する気遣いなんだろう。たまに恵がイライラしてるの心配してるもんなぁ。


「恵それ食べてムキムキになりたいの?」
「まぁ、それなりには」
「悠仁見てるとそう思うよね」
「いや、虎杖どうこうってのはない」
「そうなの?」
「仲間を守れるようになりたいんだよ」


そう言って恵は手を強く握りしめた。固い決意の表れのように。でも、その気持ちはわたしも同じで、悠仁や恵、野薔薇を守りたいと思うし、荷物になりたくもない。それに宿儺の嫁を自称している以上、弱いままでいることは許されない。


「恵、やっぱりわたしも食べる」
「なまえもムキムキ目指すのか?」
「恵よりムキムキなるよ」
「それはやめてくれ」
「なんで?」
「なんか違う」
「なんかってなに?」
「なんかはなんかだよ。東堂の身体したなまえはなんか違う」
「いや、誰もそこまでムキムキにするって言ってないじゃん」
「じゃあどのくらいだよ」
「真希さんくらい」
「それは無理だろ」

恵にはっきりと無理って言われてしまってちょっとカチンときた。真希さんにはなれない、それは自分でも分かってる。けど、それを目指したって許されるじゃない。結構ムカついたから、恵の手元にあったプロテインバーを奪って、「恵はこっち」とカルシウムバーを差し出した。


「何怒ってんだよ」
「怒ってないよ」
「なまえのほうがカルシウム必要なんじゃねぇか」
「だーかーら」
「今のままの抱き心地がいいと思う、俺は」


ほら、と言って、軽々とわたしを抱えあげる恵。いや、だからそうやって運ばれることにならないように強くなりたいって話なんだけど。そう言いかけて、やめた。わたしを抱えた恵が優しそうな顔していたから。これ以上馬鹿みたいに言い争っても仕方ないって思ってしまった。体術だけが強くなるための道じゃない。


「カルシウムとプロテイン半分ずつ食べよっか」
「俺はカルシウムいらねぇだろ」
「いるよー恵は身長もこれから伸びるし!」
「目標、五条悟!」
「それは無理だろ」

ベンチに優しく降ろされて、二人笑いあいながら、パッケージを破る。少しずつでも、ちょっとずつでも、一緒に成長していこうね。