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「伊地知さん、例の任務って日曜日でしたよね?」
「あ、すみません。それ月曜日に変更になりました」
「そうなんですか」
「なんでも狗巻くんに家庭の用事があるようで」
「はーい、了解です」

今度赴く任務の資料について、疑問点があったので、伊地知さんのところへ向かった。いつものようにローテーブルの上に足を乗せた横柄な五条悟と、その横で困った顔をしている伊地知さんが居て、今日もこの男が嫌いだと思った。
疑問点も解消して、日程の変更も受け、立ち去ろうとすると、五条悟が座っていたソファの背もたれに頭を乗せてこちらを見てきた。


「なまえってさ、呑気だよね」
「はい?なんですか急に」
「棘の用事はさ、お見合いなんだよ。誰かさんとのお見合い無くなっちゃったからね」
「え?」


五条悟の言葉に戸惑いを隠せなかった。子供のように我儘を言って、大人を困らせ、なかったことにしてしまったことがこんな風に形を変えていたことなど、子供のわたしには想像することすら出来なかったからだ。突如突き付けられた事実に、ただただ困惑した。


「どうしてわたしにそれを知らせたんですか?」
「なまえが後から聞いて傷つくくらいなら、僕が傷つけたいって思ったんだよね」
「うわ、最低」

捻くれた言い方ばかりしてくる五条悟を、心底最低だと思った。嫌いだと思った。それと同時に、わたしの時に動いてくれたのはこの人で、この人はあっけなくわたしの見合い話をなかったことにしたけれど、わたしにはそんな力がないことが悔しくなった。同時に何も知らない、知らされていないわたし自身にも無性に腹が立った。


「伊地知さん」
「は、はい」
「今日、狗巻先輩って任務出てないですよね」
「と、思いますが」
「ありがとうございます」


わたしに何が出来るかなんてわからないけれど、こんなのが間違っているってことだけは分かる。狗巻先輩にはもうこれ以上縛られて欲しくない。縛られちゃいけない。もっともっと楽しいって顔で笑ってて欲しい。もっともっとわがままになって欲しい。

……わたしが言えた義理じゃないけど。


「なまえどうするつもり?」
「わかんないけど止める」
「それでこそなまえだね」


出来るかどうか、じゃない。そう思った。とりあえず、会って、話を聞いて、わたしに出来ることを考えよう。そう思って、五条悟にあっかんべをしてその場を立ち去った。背後で伊地知さんの大きなため息が聞こえたような気がした。気のせいだといいけど…