03

学生の本分は勉学である。
それを否定するつもりはないし、勉強が嫌いなわけではない。好きでもないけど。ただテストはしんどい。しんどすぎる。普段体ばっかり使ってるせいか、急にテストと言われても頭が勉強にスイッチしてくれない。気づけば筋トレしているし、ストレッチしているし。身体を動かすことができないことがこんなにストレスになるとは知らなかった。

けど、それはわたしだけではなかったらしい。気分転換に談話室へ行けば、悠仁がテキスト開いて船を漕いでいた。


「悠仁、寝るな」
「あ、なまえ」
「こんなところで寝たら風邪ひく」
「優しいのな」
「悠仁が風邪ひいたら宿儺が困る。…かもしれない」


かもしれないと付け足したのはわけがある。
宿儺は呪物であるからだ。呪物は反転術式が容易にできる。つまり、悠仁が弱ったところで、宿儺はそんなことお構いなしに、反転術式で元気な体に戻してしまう可能性がある。


「宿儺は?」
「またそれー」
「ブレませんから」
「お前絶対おかしいって」


悠仁がわたしを見る目が一瞬で変人を見る目に変わった。よく恵が五条悟を見るときこんな目してるなぁと思いながら、いつも宿儺が現れる悠仁の頬に指先で触れる。わたしごときのために出てきてはくれないだろうなぁ。そうわかってはいても。


「ちょ、ちょっとなまえ」
「そういえば、ここに目が増えるんだよね」

次は宿儺が悠仁の身体を乗っ取ったときに目が現れる目元に触れる。あと、ここに紋章が現れる。そういえば、手のひらに口が現れたこともあった。そう思ったら、悠仁の手のひらを手に取って、なにも現れないその手のひらに唇を寄せていた。


「ま、待って」
「え?」
「それ俺の身体でもあるから」
「はぁ?」
「そんな触り方されると変な気分なる」


顔を上げれば顔を真っ赤にした悠仁がわたしを見下ろしていた。宿儺の痕跡を探すためにソファに座っている悠仁の上に馬乗りになっているわけだから、変な気分になるなと言ってもそれはおかしな話。ごめん、と言って、床に座りなおす。ぽんぽん、悠仁の手がわたしの頭を撫でた。一方通行なわたしの恋路を哀れに思ってくれたのかどうか定かではない。けれど、その優しさは少しわたしを癒してくれた。宿儺ではないその手でも。