04

五条悟が大量の課題を出した。
理由は至って幼稚なものだった。自分は連休も仕事だというのに、学生だけって理由で連休を遊んですごすのが許せなかったらしい。普段は「若人から青春を取り上げちゃいけない」とか言ってるくせにね。すごい矛盾。


「悠仁できた?」
「全然」
「協力しませんか?」
「おーいいね」

悠仁の部屋を訪れたのは、彼が最後の砦だったからだ。初めは野薔薇と一緒に課題に取り組んでいたけれど、気分転換に買い物へ出かけてしまったし、恵はドアを開けてすらくれなかったので多分まだ寝てる。こうして消去法で残ったのが悠仁だったというわけだ。


「ねぇ、悠仁さぁ、宿儺に代わってよ」
「え、無理」
「なんで?お願い」
「なまえのこと殺しちゃうかもしれないし」
「殺されてもいいから」
「よくないよ」
「今度アイス奢るから」
「先生じゃねーし甘いもんでつられないし」
「お願い」
「ダメ」


悠仁が両腕で大きなバツを作る。期待してなかったとはいえ、こうも全面拒否だとやっぱり悲しい。がんばってるのになぁ、わたしだって。勉強もこうしてやってるし、演習も人より多くやってるし、美容にだってそこそこ気を使ってる。そのご褒美がすこしくらいあってもいいじゃないの。神様はケチだなぁ。


「悠仁さ、わたしのことどう思ってるの?」
「え?…それはど、どういう意味で?」
「悠仁もバカだなぁって思ってるのかなぁって」
「あーそっちか。別にいんじゃね?恋愛なんてひとそれぞれ」
「だよねぇ。…で、そっちじゃないほうってなに?何考えてたの?」
「うっせ。口より手動かせ」

テキストを捲って、わたしから視線を外してくる悠仁。純粋に気になっただけなんだけど、なにか地雷踏んだのかな。あからさまな不機嫌が顔面に浮き出ていた。


「痴話げんかか」
「「違う」」


悠仁の頬に現れた口が言葉を放った。宿儺だ!と喜ぶよりも先に否定の言葉が出た。しかも言葉が揃ってしまって、本当になんだかなぁって気持ち。二人に同時に否定された宿儺は「仲はいいじゃないか」と声を上げて笑った。

「宿儺もう戻れ」
「え、もっといて欲しい」
「邪魔」
「やっぱり痴話げんかじゃないか」


悠仁の右手が左頬を覆う。宿儺に居て欲しいわたしはその手を剥がそうとする。そんなことを繰り返してたら、また宿儺に「痴話げんか」って言われた。しんどい、つらい。もう二度と痴話げんかと言われないために、わたしたちは頑張って課題に取り組んだのであった。