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今日は泣いてしまったせいか寮に戻ってきて、夕飯も食べずに眠ってしまっていた。目が覚めれば、ちょうど時計がてっぺんを回った頃で、お風呂に入るタイミングを逃してしまったことを後悔し、シャワーだけでも浴びてこようと支度をして部屋を出た。
自室からお風呂場まで向かう途中で、談話室に明かりが灯ったままなのに気づいた。まだ寝てない人が居るんだ、と談話室のドアを開けた。


「あれ?恵じゃん」
「……あぁ」
「寝ないの?もう0時過ぎたよ」
「なまえが起きてくんじゃねぇかって思って待ってた」
「ごめん、寝てた」

ソファに座っていた恵は、スウェット姿であとは寝るだけの状態。片手に本を持っているところを見ると、待っていたと言われても疑う余地はない。わたしになにか用があったのだろうか?と恵の居るソファの方に向かった。持っていた荷物をソファの端に置いて、恵の隣に座る。恵は持っていた本を閉じて、目の前のテーブルの上に置くと、じっとわたしの顔を見てきた。


「……なに?どうしたの?なにかついてる?」
「目、腫れてんな」
「あ〜うん、まぁ色々あって」
「泣いたのか?」
「どうかな」


涙の理由を聞かれても言えないから、誤魔化してしまった。けど、恵にはそれが嘘だって言うのはバレバレだったみたいで。恵の二つの目は、まだわたしを捉えたままだった。


「泣いた、かも」
「大丈夫なのか?」
「うん、一人じゃなかったし」
「狗巻先輩、か?」
「え?」
「悪い、昼に狗巻先輩と居るの見た」
「あ〜そっか。うん。ちょっと色々あって。でも、がんばるしかないしがんばるよ!」


わたし的には、もうこれで話は終わり。そう思っていたのに、恵はまだ疑いの眼差しをわたしに向けていた。わたしの前髪を人差し指で分けながら、顔を近づけてくる恵。コツンとわたしの額と自分の額をくっつけて、やっと恵は一つ瞬きをした。


「なまえの泣く場所は俺であって欲しかった」
「う、うん?」
「何かあったら次からは言えよ?」
「うん…」
「あと、狗巻先輩と距離近いのはなんか嫌だ」
「……はい」


距離が近いのと、優しく諭すような声色とで、相手は恵なのに返事が片言になってしまった。そのことを伝えるために、来るか来ないか分からないわたしを待っていてくれたのだろうか。そう考えるのは、自意識過剰かな。そう考えたら無性に恥ずかしくなってしまって、恵とくっついていた額を離して、今度は恵の肩の上にくっつけた。


「恵、おなかすいた」
「なんか用意しといてやるから風呂入ってこい」
「うん。でもあとちょっとだけ、このままで居たい」


恥ずかしさを誤魔化すために「お腹すいた」なんて色気のないことを言ったのに、いざ離れるってなったら寂しくなって、「あとちょっと」なんて曖昧な言葉を口にしてしまった。恵がこんな風にお兄ちゃん風を吹かせるの、やっぱりわたしは好きだし嬉しいと思ってしまうよ。