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日曜日を二日後に控えた金曜日、近場での任務を終えて寮に戻ると、談話室に棘先輩が一人座っていた。そっと近づいて後ろから両目を覆う。スマホを見ていた棘先輩はすぐに気づいて、「ツナマヨ?」とわたしの名前を呼んだ。


「正解です!なんでわかったんですか?」
「しゃけしゃけ」
「あ〜そっか。真希さんも野薔薇もこんなことしませんよね」


棘先輩は、すぐにわたしがやったって気づいたらしい。こんなことするのは、わたしくらいって言われて、なるほどとすぐに納得してしまった。真希さんも野薔薇もそういういたずらはしないもんなぁ。


「ツナツナ」
「なんですかこれ?」
「明太子」
「硝子さんから?あ、洋服かな?」


棘先輩から紙袋を差し出されて、それを受け取る。紙袋に書かれたブランド名と、硝子さんの名前からこの前頼んでた日曜日に着ていく服だということはすぐに分かった。紙袋を開いて中身を確認する。中に入っていたのは着心地の良さそうなパーカーワンピ。フードとポケットが黒で全体が白。ポケットのところはもこもこになってるし、裏起毛。パンダ先輩みたいでかわいいなぁと思って、身体にあててみる。「どうですか?」と棘先輩に問いかける。すると、どこからか取り出した紙袋から似た色合いのパーカーを取り出した棘先輩が、わたしを真似て身体にパーカーを当てて「ツナマヨ?」と茶化してくる。



「も、もしかしてこれペアルック…?」
「しゃけ」
「うわ〜〜マジか」

硝子さんが用意してくれたのは、ペアだった。ただ、棘先輩のそれは小さめの棘先輩に対してサイズが大きすぎる。不思議に思いながらも、それよりもペアルックになってしまったという棘先輩の申し訳なさのほうが先に立った。


「わたし、日曜日これ着ていくつもりなんですけど」
「しゃけ!」
「ダメですって!棘先輩は違うのにしてください!」
「高菜、明太子」
「確かに、ペア着てったほうが信ぴょう性は上がると思いますけど、なんていうか、は、恥ずかしい…」
「しゃけ!」


忘れていた。棘先輩は五条悟には負けるけど、悪乗り大好き人だった。わたしが恥ずかしがる姿を楽しまないはずがなかった。さも当然という顔で、ノリノリで、「これを着ていく!」と宣言されてしまった。かといって、硝子さんがせっかく用意してくれたわけだし、今から違う服をわたしのセンスで選べるか?と聞かれたらそれは無理なわけで。つまり、わたしが他のものを着ていくという選択肢は今更ない。「わたしは女優」と思い、演じ切るしかないのだ。


「付き合ってないのにここまでしちゃっていいんですかね」
「おかか?」
「全然嫌じゃないです。こういうの初めてだから恥ずかしいってだけで」
「すじこ、」
「棘先輩も?嘘だぁ。絶対今まで彼女いたでしょ?」
「おかか」
「じゃあ理想が高いとか?」
「おかか、ツナマヨ?」
「わたし?わたしのことはどうでもいいんですよ」


棘先輩とこうして恋バナが出来るなんて思ってもみなかったから、少し突っ込んで話を聞いてみたかったのにすぐに誤魔化されてしまった。呪術師なんてみんなそれなりに闇を抱えて生きてるから、健全な恋バナを聞いてみたかったのに残念。宿儺を好きなわたしに健全なんてものはなにかは全くわからないけど、日曜日は健全な高校生の恋人同士に見られたらいいな。そんなことを考えながら、ソファに座っている棘先輩の隣に腰掛けた。