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運命の日の朝、外は快晴だった。気分よく起きて、髪を整える。迷ったけれど、今まで棘先輩のご両親に会った時は化粧をかるくしていただけだったので、いつものように眉を整えて、リップだけで済ませた。硝子さんの用意してくれた服に袖を通し、厚手のタイツを履いてゴツめのホールブーツを合わせた。本当はスニーカーの方がいいかなと思ったけど、棘先輩がスニーカー選びそうだったから、そこまで揃えたら恥ずかしくて死にそうになると思ったからお気に入りのマーチンにした。
上着を抱えて談話室へ行くと、棘先輩はもう準備万端でスマホを弄りながらそこに座っていた。オーバーサイズのパーカーにスキニー。足元を見て、お互いがお互いを指さした。スニーカーだろうな、と予想していた棘先輩の足元もホールブーツだったからだ。

棘先輩と一緒に居たパンダ先輩と真希さんに「そこまでペアなら付き合っちまえよ」と揶揄われたけど、「硝子さんに用意してもらったんです!」と言って誤魔化した。ここに悠仁と恵と野薔薇が居なくてよかったってちょっとホッとした。

迎えの車が来る、という棘先輩の言葉に従って、談話室で待っている間はこれが無量空処かと思えるほど長かった。「ちょっと二人並べよ」と真希さんに脅かされるし、「パンダみたいな色だな」と三年の通りすがりの先輩に言われるし、「五条悟パンダバージョンだな」とパンダ先輩に笑われるし。

なんだかんだあって、寮を出る時にはわたしも棘先輩もぐったりしていて、今日がんばらなきゃいけないのはこれからなのにって、きっとお互い思ってた。



「棘先輩大丈夫ですか?」
「お、おかか…」
「戦闘力がもう43くらいしかないです、わたし」
「ツナツナ」


疲れてシートにぐったり倒れこむわたしを心配して、身体を起こした棘先輩がわたしの顔を覗き込む。その顔がきれいで、思わずたじろいでしまった。それを身構えていると受け取ったのか、棘先輩は自分のポケットから飴球をひとつ取り出す。それは、わたしが勉強するときによく食べている棒付きキャンディ。前に、一回だけ棘先輩にあげたことのあるもの。しかも、それはわたしが一番好きなコーラ味。



「これ、なんで…?」
「おかか?」
「嫌いじゃないです、むしろ一番好き」
「しゃけ」


良かった、と笑う棘先輩の笑顔が眩しい。前にも思った。棘先輩の笑顔は魔法なのだと。今もまた思う。棘先輩は魔法使いではないのかと。こんなにわたしが喜ぶことを分かってくれていて、魔法みたいにポケットからそれが出てくるんだから。



「棘先輩、」
「ツナマヨ?」
「わたし、今日がんばりますから」
「おかか」
「ダメ、じゃないですよ」


こんなに幸せを貰っておいて、返すものがなにもないなんんて惨めじゃない。だから、わたしが出来る精いっぱいで棘先輩を守りたい。戦闘力たったの4の雑魚キャラだけど、棘先輩がくれた飴が仙豆になったから。わたしは全力で戦える。棘先輩のために、自分のために。