78

「お土産配りまーす」

月曜日の朝、水族館のショッパーを持って教室に入る。二年の先輩の分を棘先輩に託したので、遅くなってしまったせいか教室には全員揃っていた。


「水族館行ったの?」
「うん!イルカショー久しぶりで楽しかったよ」
「で?誰と行ったの?友達と水族館なんて行かないわよね?任務サボって」
「……男の人とだけど、彼氏ではないよ」


昨日も任務だった野薔薇が鋭くわたしを追及してくる。棘先輩と行ったってこと、先輩に言っていいか確認するの忘れちゃったから、咄嗟に誤魔化しちゃったけど無理はなかったかな。わたしの言葉を気にする様子もなく、野薔薇と悠仁はお土産を包んでいた袋を破る。2年の先輩たちにも野薔薇たちにもお土産はお揃いのボールペンにした。パンダ先輩は物理的にも気持ち的にも使ってくれるか分からないけど。


「ボールペンじゃん。サンキュー!」
「お揃い?」
「お菓子にしようかなっても思ったんだけど、それじゃつまんないなーって思って」
「あれ?伏黒のだけ袋大きくない?」
「あ、それは一つくらいはネタいれたいって棘先輩が」
「ふ〜〜〜ん、狗巻先輩と行ったんだ?」
「あ………」


せっかく誤魔化したのに自分で墓穴を掘ってしまった。誤魔化すための言葉を探したけれど、これ以上嘘を重ねれば墓穴を掘るだけ。なので、正直に「棘先輩と行った」と話した。


「いつからだ?」
「伏黒どうした?」
「いつから付き合ってんだ?」
「だから、彼氏じゃないって」
「彼氏じゃないのに任務サボって水族館行くのか?」
「落ち着け伏黒。二人で行ったとは言ってない」
「……二人で行った」
「なまえ〜〜!」
「任務をお休みしたのは悪かったと思ってるけど、ちゃんと事情があったし、許可も貰ったし」


棘先輩のプライバシーに関わる部分だけボカシて、事情を説明する。家の事情で、二人用事があってその帰りに水族館に行ったということを。それでも追及の手は止まらなかった。水面下で真希さんと連絡を取っていたらしい野薔薇が、服がペアだったことを暴露してしまうし、前回のお見合いの話もみんなが忘れるには新しい記憶過ぎた。


「なまえと狗巻先輩はどういう関係なんだ?」
「先輩と後輩…?」
「それだけか?」
「伏黒がそこまで突っ込んで聞いてんの珍しいな」
「別に珍しくねぇだろ」


なぜか不機嫌気味に問い詰めてくる恵にたじろぐ。悠仁も積極的に恵に不自然さを感じたのかやんわりと止めに入ってくれるけど、今の恵はそれすら察せない様子だった。どうしたものかと頭を捻らせていると「おっはよ〜!」の声と同時に教室のドアが開いた。教室に入ってきた五条悟を見て、みんな各々の席に戻る。ようやく恵から離れられてちょっとホッとしたのも束の間。五条悟が「なまえ、僕が服用意したのにどうして写真送ってくれなかったの?」と言いだしたから、元の木阿弥。ていうか、五条悟が服用意したなんて聞いてないよ、硝子さん…。


「どうだった?詳しく聞きたいな〜」
「五条先生何があったか知ってるんですか?」
「ん〜まぁね〜なまえのことは大概知ってるよ。少なくとも恵よりは」


恵の鋭い瞳が五条悟に向かう。けれど、五条悟の瞳は目隠しに守られているため、恵は早々に戦意を喪失してしまったらしく、その眼差しはわたしに向けられた。もう全部めんどくさくなって「わたしからは何も言えないので、棘先輩に聞いてください。写メも棘先輩に見せて貰ってください」と言って逃げた。到底納得はしていなさそうだったけど、もうすぐ授業が始まる時間だから許してほしい。棘先輩にはあとで謝っておこう。そう誓ってだんまりを決め込んだ。