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「ハグしたい派されたい派?」

どこから仕入れてきたネタなのか、お昼ご飯を食べながら悠仁が口を開いた。身振り手振りもついていたので、なんだかおかしくてオムライスを食べていたスプーンを皿の上に落としてしまった。


「急に何?」
「…くだらねぇ」


昼ごはんのフルーツサラダを食べ終わった野薔薇は、私の髪を弄りながらめんどくさそうに答えた。恵は蕎麦を啜っていた手を泊めて、不快そうな反応をする。二人がこの反応をするとなると、標的は当然わたしになる。キラキラした目で悠仁がこちらを見てくる。そんな純粋な目をしてるけど、聞かれてるのはハグの話なんだよなぁ。



「相手いないからなぁ」
「じゃあさ、じゃあさ、伏黒ならどっち?」
「恵?恵はどっちもかな。甘やかしてあげたいなぁって思ったらしたいし、甘えたいなぁって思ったらして欲しい、的な?」
「ふーん」
「だってよ?伏黒」
「なんで俺に振るんだよ」
「じゃあさ、宿儺は?」
「……!」
「なんでそこで赤くなるのよ」
「想像しちゃったの!」


恵とのハグは想像しても特別な感情を持たなかったのに、それを宿儺に置き換えたら途端に恥ずかしくなった。自分でも分かるくらい顔が熱を持っているのが分かって、右手で自分を仰いだ。顔があっつい。オムライスを食べ進める気にもならず、スプーンはトレイに置いたままだ。


「そういう悠仁はどっち?」
「俺は抱きしめたい派!」
「あーわかるかも」
「虎杖っぽいな」


話を逸らしたくて、悠仁に話を戻した。返ってきた回答に思わず頷いてしまう。恵も野薔薇も同意見のようだ。やっと心が落ち着いてきたので、オムライスを食べるために再びスプーンを手にした。


「ところでなんで急にそんな話始めたの?」
「あーなんか宿儺がハグって言葉覚えたから?」
「呪いの王って勤勉なのね」
「暇なだけじゃね?」

ふたつに分けたわたしの髪の片方を編み終わった野薔薇が、さっきより興味ありげに悠仁に問いかける。宿儺は悠仁の中の生得領域に普段いるらしい。どんな感じなの?と一度行ったことのあるらしい悠仁に聞いたら、牛骨がたくさんある場所って想像しにくいヒントを貰ったことを思い出した。だから、牛骨に囲まれて暇そうにしている宿儺を想像した。ちょっと可愛いなって思ってしまって顔がにやけてしまう。



「なまえ、顔どうした?」
「どうせ宿儺のことでも考えてるんでしょ?」

もう片方も編み終わった野薔薇が呆れた様子でわたしの背中を叩く。「早くご飯食べないと時間なくなるわよ」と言って。気づけばしゃべり続けていた悠仁ももくもくと食べていた恵ももう食べ終わっていた。オムライスを黙々と食べながら、わたしは暇そうな宿儺を想像してまた笑った。