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「あっれー?悠仁寝ちゃってる」

英語の授業が終わって身体を解すために立ち上がる。各々教科書をしまったり、黒板を消したり、と動き出す最中、動かない人が一人。悠仁だった。いつもなら「腹減ったー!」と伸びをしたり、早弁とばかりにパンを取り出したりするのに。珍しいなーと悠仁の傍らに立って、肩をトントンと叩く。「んぁ、」と変な声を出した悠仁がぱっちりとその目を開いた。


「授業終わったよ」
「やべ、寝てた」
「うん、気持ちよさそうに寝てたからどうしようか迷った」
「五条先生に呼ばれてたから助かった!サンキュ!」

身体を起こして立ち上がると両手を上にあげて、ぐい、と悠仁が身体を伸ばす。好奇心、ほんの好奇心で両方の脇腹を掴んだ。服越しでも分かる、そのむっちり感。引き締まった筋肉に、ほどよい弾力。宿儺が服をすぐに破るせいで悠仁の裸の上半身を見たことはあっても、触れたことがないのでようやく疑問が晴れた気がした。



「あのー、なまえさん?なに?」
「あ、ごめん。つい」
「ついで人の脇腹揉むの?」
「前々から触ってみたかったというか確認したかったというか」
「服の上からで満足?」


意地悪そうに悠仁がぺらりとお腹を出した。筋肉フェチというわけではない。でも、悠仁の筋肉は別。「じゃあ、失礼します」と言って、直接肌に触れる。布越しとは違う、暖かさと弾力。人肌が気持ちいいってこういうことを言うんだと思った。せっかくだし、と綺麗に割れた腹筋に手を伸ばそうと脇腹から手を離したところで、「なにやってんのよバカ!」と言ってわたしの頭を野薔薇が叩いた。と、同時に悠仁は悠仁で「真昼間から見たくねぇもの見せんな」と言って恵に叩かれていた。わたしも悠仁も散々な言われように、頭を抑えながら「ちょっとくらいいいじゃん」と不満を口にする。


「公衆の面前でなにやってんの」
「人前では脱ぐな。常識だろ」
「えー4人しかいないんだしいいだろ。下脱いでるわけでもないのに」
「じゃんじゃん〜」
「乙女の前で脱ぐなって言ってんのよ」


否定派の野薔薇と恵、肯定派の悠仁とわたしで意見が真っ二つに割れる。正直知らない人の裸だったら気持ち悪いと思う。でも、相手はクラスメイトで、もう何度もその裸体を晒している悠仁なのだ。今更という気持ちのほうが強い。


「ていうか、悠仁、五条先生に呼ばれてるんじゃないの?」
「あ、そうだった。行ってくんね」
「もう二度と脱ぐなよ。次やったら金取るからな」

呪術師は大概イカれてる。そう言ったのはどこのだれだっただろう。イカれた人間が集まる場所なのだ。常識を説いてもきっと意味はない。まぁ、教師が五条悟の時点で詰んでるようなものだから仕方ないような気持ちになった、ある晴れた日の午前。