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任務の帰り、少し大きな公園で補助監督の迎えを待つことになった。公園の入口で地図を見る。遊具とは別にバスケコートとテニスコートがある。もう少し歩けば水遊びできそうな小川もあるらしい。一緒に任務をこなした悠仁は「東京にもこんなところあるんだな〜」と興味深々の様子。わたしも興味があったので、ただ待ってるのも暇なので悠仁と一緒に近くを見て回ることにした。

わたしが補助監督に連絡を入れている間、暇だった悠仁はバスケコートでバスケをして居る子たちを見ていたらしい。演習があるから、高専では体育の授業がないもんね。


「悠仁、バスケ得意?好き?」
「んー身体動かすのは好き!球技も得意!」
「悠仁やってるところ見てみたいなー」
「ならさ、ちょっと混じってきてもいい?」
「もちろん!わたしベンチで見てるね」


悠仁と一緒にフェンスで区切られたバスケコートの中に入る。タイミングよく足元に転がってきたボールを拾って、バスケをしている人たちの中に悠仁が駆け寄っていった。数回の会話を交わしたと思ったら、上着を脱いで「持ってて!」とわたしに投げた。交渉成立らしい。こういう時の悠仁のコミュ力ってすごいと思う。呪術師は根暗が多いから、悠仁みたいなタイプは新鮮だ。


「なまえ見てて!」

元気な笑顔をわたしに向けて、悠仁がコートの中を駆け回る。誰よりも早く、誰よりも軽やかに。2対1で戦っているのに、フリーになって綺麗なフォームで悠仁がボールをゴールへ放った。それからも点を取ったり取られたりを繰り返したけど、悠仁がゴールを決めた回数のほうが多かったような気がした。恵も真希さんみたいなものって言ってたけど、本当に悠仁は運動神経いいんだな〜。

何セット繰り返したんだろう。悠仁が着ていたパーカーの袖で汗を拭き始めた頃、補助監督が到着したとの連絡が入った。悠仁がシュートを決めたタイミングでそれを告げると、一緒にバスケをしてた人たちと会話を交わして手を振った悠仁がこちらに向かってくる。

「彼女さんとお幸せに」と声を掛けられ、照れたようにもう一度悠仁が手を振ったから、私も隣でペコっと頭を下げた。


「わたしたち恋人に見られてたんだね」
「だな!」
「悠仁の彼女に見られるなんて光栄だなー」
「俺もこうえい!」


ふふふ、とお互い笑いあって歩き出す。ポケットから取り出したタオルハンカチで悠仁の顎から滴り落ちる汗を拭いた。恋人同士ってこういう風にするのかな?普通じゃないわたしたちには普通が分からないけど。


「さんきゅ、なまえ」
「彼女っぽい?ぽい?」
「わかんねぇよ、彼女居たことねぇし」
「ダメだな」
「宿儺!」
「急に出てくんなよ」

悠仁の頬ににゅ、と宿儺の口が現れる。それが不服な悠仁はパチンと音が出るほどその場所を強く叩いた。久しぶりに出てきてくれたのになぁって思ったけど、悠仁の身体は悠仁のものだからわたしにはどうすることもできない。声が聞けただけでわたしは嬉しいからそれだけで十分うれしい。


「球遊びなら俺にもできるぞ」
「見たい!」


悠仁に爪はじきされながらも、悠仁の身体のあちこちを転々として、宿儺は会話を続けてくれた。悠仁はその度にぺちぺちと自分を叩いていたけれど、宿儺は諦めなかった。なにか伝えたいことがあるのか、ただ暇なのか。


「小僧が身体を貸せばいつでも見せてやる」
「悠仁〜〜!」
「やだよ」
「また心臓取られたいのか」
「すぐそーいうこと言うのやめろよ」
「はーーウザ」
「まぁまぁ、ほら新田さん来たよ」


悠仁と宿儺が言い争いを続ける中、黒い迎えの車が見えた。今度、恵や野薔薇、パンダ先輩や棘先輩、真希先輩も誘ってみんなで来たいなと思った。そんな平和な日々が続けばいいと願って止まない。