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たまにチカチカしていたなぁと思っていた電気が点かなくなった。時刻は19時。あたりはまっくら。寮の中は古い設備だからか、LEDなんてたいそうな電気ではないから電気がきれるのも致し方ないこと。が、わたしにとってはその致し方ない問題が、大問題なのである。高専の生徒は数が少ない。つまり、寮生も少ない。だから、管理人などいるはずもない。そこから導かれることは寮の設備の故障は、担任に言わなければならない、である。わたしたちの担任は、五条悟。そして、わたしは五条悟が好きじゃない。

五条悟へ連絡するくらいなら、卒業まで我慢するほうがマシなのでは?と思ったところで手元のスマホが「要充電」を告げる機械音を鳴らした。ついてない時はとことんとことんついてないものだなぁと肩を落とす。

とりあえず、部屋を出た。なんとしても五条悟と一対一にはなりたくはない。頭で考えるのが先か、身体が先に動いていたのかは分からないが、わたしは恵の部屋に向かっていた。



「どうした?」

連絡もナシに訪れたわたしを迎えてくれた恵は上下黒のスウェットだった。もうお風呂入ったのか、ふわふわと石鹸のいい匂いがした。フェロモンすごい、と思わず口にしてしまいそうになったけど、今、恵に見捨てられたらわたしに明日はないので、我慢した。


「部屋の電気切れちゃったんだけど、どうすればいいのかな?」
「あー建物古いからな。俺も前なった」
「本当?ちょっと見て貰ってもいい?」
「いいけど明るい時間のほうがよくねぇか?」
「…ですよね〜〜」


当然と言えば当然の答えが返ってくる。とぼとぼと来た道を戻ろうか、と踵を返したところで恵が「部屋戻っても暗いんだろ?俺の部屋で時間潰すか?」と声を掛けてくる。「いいの?」と振り返る。


「今更気にするような仲じゃねぇだろ」
「いやいやいや、気にしろって言ったのは恵じゃない?」
「それは、俺以外のヤツとの話。虎杖とか、狗巻先輩とか」
「わかんないけどわかった!」
「わかってねぇのかよ」

ぺし、と恵が手の甲でわたしの頭を小突く。開け放たれたままのドアから入り込めばいつものように殺風景な恵の部屋が拡がる。ベッドの上に置かれた本から、恵が何をしていたのかは容易に想像がついた。さっきまで恵がしていたように、ベッドにダイブして寝転ぶ。ふかふかのふわふわ。


「だから、そういうところだっつーの」
「恵以外にはしなきゃいいんじゃないの?」
「もうそれでいい。他では絶対やんなよ」
「はーーい」


首筋を擦りながら恵がわたしが横たわるベッドの端に浅く腰掛ける。うつぶせになっている無防備なわたしの頭の上を恵の大きくて骨ばった手が往復する。心地よさから目を瞑る。わたしがわがまま放題出来るのは恵の前でだけだよ、きっと。